好きな人は大切に
忘れ物
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放課後を迎えた。
いつ声をかけようかと天童の様子を伺っていた名前は、部活へ向かってしまう前に天童を捕まえなくてはと気を張っていた。
…にもかかわらず。
「あっ若利くーん!部室行く?」
「あぁ。」
「じゃおれも行こっと。」
彼が教室を出たと同時に廊下を通りかかった牛島を見て声をかけた天童。
名前としては誰かがいられると少し話しかけにくくなるので困る状況になってしまった。
ふたりが親しげに話す背を見つめながら気分は落ち込む。
…きょう、一言も話さなかった。
いつも、天童のいる休み時間がきょうはとても寂しく感じた。
いつの間にか、いるのが当たり前になっていたことに気づかされる。
…あした、言おう。
席に戻った名前は荷物を手にした。
一方、天童は部室で着替えの最後であるジャージを羽織った瞬間に、あることに気づく。
「アッ!タオル机の中に置いて、取ってくるの忘れた!!」
「なんで机の中に入れる…?」
白布が不思議そうにそう呟く。
「取ってくる!!」
「予備ねぇの?」
「ナイ!」
瀬見の問いかけを背に受けながら部室を飛び出して行く天童。
パタパタと階段を駆け上がり教室に着いた天童は、誰もいない教室で自席にあるはずのタオルを手にした。
チラッと名前の机を見る。
「…嫌だねぇ。」
きょうは絶対、調子が悪いって怒られる自信がある。と肩の力を抜き、練習のことを考える。
後ろの扉から入ってきた天童は、そこから教室を出ようとした時、前の扉が開く音がして驚く。
誰か来た…!?
振り向けば、そこには息をあげた彼女の姿。
驚いた顔をしている彼女の肩に掛かった鞄がずり落ちていく。
そんなもの気にせず、彼女は「天童。」といつもと違う、少し震えた声で名前を呼んだ。
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