好きな人は大切に
何も感じない
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天童から逃げた翌朝、名前は重たい気分だった。
いつもなら早く行きたい学校、きょうはその理由がない。
…天童に会って、なんて言おう。
喧嘩とは言えない現状に、思いのほか悩まされる。
もしかしたら、天童の考えが自分とは会わないのかもしれない、そうなると、この先、付き合っていけるのかと思う。
「…やだな…。」
思わず、気持ちが口に出た。
別れるのは、嫌だ。
早まり過ぎなのかもしれないけれど、何れ別れの種になるかもしれない。
やっぱり、話さなきゃだめだ。
天童だって、話しは聞いてくれるはず。
無理なら花にも手伝って貰えば…と思った時、足が止まった。
そういえば、花は…大丈夫かな。
昨日、悩んでいたように見えた花。
突っ立っていた名前の背から「名前さん」と声がかけられた。
振り返った先にいたのは、サッカー部二年生の男。
名前の元カレ、相楽の後輩だ。
「久しぶりだね。」
「はい。名前さん有名人なんで、あまり声かけられなくて…」
「見かけはするんですけど…」と苦笑いをする彼に、名前は「なんで?」と問いかける。
「え、だって彼氏さんと一緒なんすもん…無理ですよー。」
「…ふーん。」
天童か。
天童と居ると、声がかけにくい、と?
それは考えたことなかったなぁと思う名前に「そこ立ってると目立ちますよ。普通にしてても目立つのに…」と言われ「いい意味で言ってる?」と彼を睨んだ。
「でも相変わらず綺麗っすね。」
「えー、ありがとう?」
「なんで疑問形…」
「だってあまり言われない…」
靴を履き替える二人。
バタンとロッカーを閉めれば、隣から「彼氏さんに言われないんですか?」と聞かれ、思い出す。
名前ちゃん、可愛い。
「あー、やっぱり言われてるんじゃないですかー顔赤いですよ。」
「先輩をバカにしちゃいけません。」
「バカにはしてないです。」
言い合いながら、教室へ向かう二人。
この時、名前は思っていた。
やっぱり、天童に言われないと、なんにも感じない。
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