好きな人は大切に
らしくない
▼ ▲ ▼
「遅かったな。覚。」
名前が帰った後そのまま体育館へ向かった天童。
その彼の姿を見て、大平はいつものように声をかけた。
「うん。」
それだけ言うとシューズの靴紐を結ぶ。
違和感を感じた大平は天童に歩み寄った。
「…何があったんだ?」
ピクリと、肩を揺らした天童。
大平と反対へ向けられた視線。
「ナンデモナイヨ?」
「彼女と喧嘩でもしたか?」
「俺と名前ちゃんが?まさか〜するわけないデショ?」
普通の表情、普通の声色。
傍から見れば今の天童は、誰が見てもいつもの天童だ。
でも、大平の目には少し違って見えている。
「じゃあちょっとしたすれ違いか?」
去ろうとするその背に、そう問いかける。
立ち止まった天童が振り返ればヘラっと笑った。
「獅音くんには隠せそうにないかー。」
「お前、本当に…本当に、ソレ本心なのか?」
部室で、シャツを脱ぐ瀬見が問いかけるのは天童と名前の話について。
大平と話すより前に、瀬見にバレてしまい彼がアドバイスをするのもいつものことのようになっている。
「本心に決まってんじゃん。」
「…ふーん。」
「なに?」
「いや…お前らしくないな。」
え?と大きな目をさらに大きく見開く天童。
「英太くんが思う俺ってどんなヤツよ?」
「もっと好きなこと出来る自由な奴。」
「…うーん…そーゆーとこあるね。」
「「……。」」
二人の間に流れる沈黙。
瀬見が眉間に皺を寄せた。
「そーゆーとこあるね、じゃねぇよ…何の解決にもなってねぇだろーがっ」
「ゴメン。何言いたいのかわかんない。」
「…。」
ケロッと言ってのけた天童に微笑む大平。
瀬見は口を固く噤む。
「瀬見が言いたかったのは、覚がしたいことしないのはらしくないってこと。」
「え?」
「したいことは、した方がいいよ。もちろん、彼女に聞いた上で。」
眉を八の字にして大平を見つめる天童。
「今の彼女が、覚とそういうことしたとしても、今までの彼女たちとは違うからといって、対応をするしないに分けるのはおかしいんじゃないのか?」
「俺…極端過ぎた?」
「そーゆーこと。」
「そりゃ誤解も招く。でもつまりは…彼女も覚とはそーゆーことしたくない訳じゃないんじゃないか?」と問いかけた時、天童は「でもさ?」と大平を見た。
「好きって言われちゃったら、ギューってしてあげたくなるし、チューだってしたくなっちゃうんだよ?俺の理性はそろそろ限界が近い…。」
目を瞑って点を仰ぐ天童。
瀬見が呆れた顔でその隣に立っている。
「だから、同意を得ればいいことだろ?」
「同意って、名前ちゃんに?」
「そう。OKが出るかもしれねぇじゃん。」
そう話す瀬見に、据わった視線を向けた天童は
「じゃあ、ダメだって言われたら…どうしたらいいの?俺のその時の感情。」
「……。」
瀬見が悩む素振りを見せた。
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