好きな人は大切に
もやもや
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「名前ちゃんか…」とぶつぶつ言いながら天童は教室へ向かうべく階段を上がっていく。
その少し後を歩く名前。
彼の背を見ている現状に、自然と頬が緩む。
付き合ってからというもの、同じ時間に教室へ向かう朝は久しぶりなこと。
名前にとって朝の天童の一面もまた、新たな発見となることが多い。
「俺さ、いつもこの時間は教室にいる名前ちゃんに、どうやって声かけようかなぁ、何話そっかなぁって、考えてるんだけどさ〜…」
足を止めて、振り返った天童。
数段下にいる名前が顔を上げた時、据わった目を向けた。
「きょうは花ちゃんのカレシに会ったせいで朝からもやもやしてる…なんか消化の悪いもの食べた後みたいなカンジ!」
目を瞑りセーターの上から胸元を撫でる天童。
例えに首を傾げた名前は考える。
「胃もたれみたいな?」
「うーん…それはちょっとチガウ。」
天童に追いついた彼女を横目に、手を伸ばす。
名前の掴まれた腕はそのまま天童の引く力に寄って引っ張られた。
彼女の背後をバタバタと駆けていく生徒数名。
「名前ちゃんはさ、特別な事、あってもいいって思う?」
「ん?」
彼女の腕をパッと離すなり、階段を上っていく天童。
「恋人ってさ、難しいじゃん?俺今までどうやって付き合ってたっけ?って思うんダヨネ。」
それは、今までの彼女たちが上手くしてくれてたんじゃ…と思う名前。
本当に彼は彼女を大切な人として見ていなかったということが分かる。
「よくよく考えればさ、いいことしてたなぁと思うんだけど…やっぱりそれは何かチガウしさ?いや、したいよ?したいんだけど…」
「???」
今、天童は何の話をしているのだろうか?
名前の脳内では、彼の話す言葉の中から主語を必死に探そうとしていた。
いいことって何?
何が、したいの?
「名前ちゃんとは、そーゆーのナシでちゃんと恋人したいわけ。」
…どーゆーのが、ナシなの?
ショート寸前の彼女を見た天童が、彼女の目の前で「聞いてる?」と手を振る。
我に返った名前は至近距離にあった天童の顔に、頬を赤く染めた。
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