▼ 恋の駆け引きゲーム
放課後の体育館。
音駒バレー部のマネージャーの名前はせっせと仕事をこなしている。
セッターの研磨はリエーフとスパイクの練習をこなしていた。
「次!お願いします!」
「…ちょっと休憩。」
「あ、うぃっす!」
高く跳び、腕を振る。
それに加え、ボールに合わせようと力む。
リエーフの体力の消耗はセッターの研磨より消費するものだった。
名前が準備していたボトルをゴクゴクと飲んでいくリエーフ。
その隣で同じく飲もうとした研磨にバインダーを見ながら何かを考えている様子の名前が気づく。
「あー!!待って待って待って!」
「え…。」
バインダーを手から放り出し、研磨のボトルを物凄い勢いで奪い取る名前に、研磨は目を一瞬見開いたが、すぐ眉間に皺を寄せた。
隣で飲んでいたリエーフも驚いたようで、咽ている。
奪い取った直後、それに口づけた名前。
「…それ俺の…。」
「なんだけど。」と怪訝そうに呟く研磨なんて余所に、ゴクゴク飲む名前。
「うん、やっぱりぬるい。」
「え?」
「ねぇ、リエーフもぬるくなかった?」と咽が収まり、ぜぇぜぇしているリエーフに問いかける名前。
全く話を聞かず、眼中にも入れない彼女に研磨は「名前。」と彼女のシャツを引っ張った。
やっと、視界に彼を入れた名前は「何?」といつものように笑顔を向ける。
「なにじゃないんだけど…」と彼女の手にするボトルを指さす。
そのボトルに視線を向けた名前は「あぁ!ちょっと待ってて、今冷やしたほう持ってくるね!」と手にしたボトルを研磨に手渡しバタバタとそれを取りに行った。
「…はぁ。」
ドッと疲れが増した気がした研磨。
手にしたボトルを見て、口づけた瞬間の彼女を思いだす。
何してくれてるんだろ…。
そう思いつつ、とりあえず今すぐ水分補給がしたかったため気にせずそれに口づけた。
「…ぬるい。」
飲んだ気がしない…でも、体的にはちゃんと水分として分解されるだろう、と立ち上がる研磨。
隣のリエーフに声をかけようとしたら、どこかへ消えてしまった姿。
「…リエーフ?」
体育館を探してもあの目立つ姿は目に入らない。
まぁ、いいや。ちょっと休憩しよう。
研磨は再びベンチに腰掛けるとぬるいドリンクの入ったボトルに再び口づけた。
その時、背後からボトッと大きな物音がした。
振り返ると、頬を赤くした名前の姿。
「?…なに?」
様子がおかしい彼女にそう言葉をかける研磨に、名前はボトルを指さし言う。
「そ、そ、それ!私が飲んだやつ!」
「…え。」
あ、そうだった。とすっかり忘れていた研磨はボトルを見て、彼女が何を言いたいのか察しがついた。
顔を真っ赤にする彼女に、研磨は口角を少し上げた。
「名前って、かわいいとこあるんだね。」
「なっ…」
さらに顔を赤くした彼女に、ふっと笑う研磨。
「名前だから別にいい。」
「そ、それって…」
名前は先ほど全く眼中になかった研磨を、今は他のことなんて気にもできないほど彼を見ていた。
研磨はそのボトルを置いて言う。
「変な誤解はしないで。」
「…。」
「でも…俺のことももう少し見て。」
「…へ…。」
そう言ってボトルを置いてコートへ戻る研磨。
「…なに、いまの。どっちなのよ…。」
ドキドキ、心臓が忙しく働いている。
気になって、気になって、彼に恋に落ちるに、時間はかからなかった。
恋の駆け引きゲーム
すぐに、攻略されそうだ
-END-