▼ 傲慢な私を赦してください
名前は、中庭にいる彼氏を見つけた。
いつもの如く、幼なじみの研磨と昼食を取り終えた様子だ。
そこへ一人の女子が黒尾に近づく。
研磨は体を横へ向け、黒尾を避けるように逃げる。
どうやら黒尾に喋りかけたようだ。
名前は遠くながら、その様子をじっと見つめていた。
「…ニコニコしちゃって。」
クラスにいても、女子にはいつもあぁだけど…と心に苛立ちを感じながらその場を去る。
昼休み終了のチャイムとともに、教室へ入ってきた黒尾がまだ数人席についていない教室を見て、名前の方へ身を寄せた。
当の本人はムスッとしており、黒尾は「おい、名前。どうかしたのか?」と心配する言葉をかける。
ジロッと黒尾を睨むなり、「誰のせいで…」と口を開く。
その様子を見て黒尾が口角を上げた。
「なーに?俺のことで怒ってんの?」
「うん。」
「またヤキモチか、お前は。」
「可愛いやつだな。」と簡単に言ってのけた黒尾に「そうやって誰にでも言ってんでしょ。」と言い放つ。
逆効果だということは名前にもわかっていた。
黒尾は「俺はデレの名前ちゃんの方が好み。」
ニヤリと不敵に笑い、席についた黒尾の背に向かって睨んだ。
放課後、バレー部へ向かう前、黒尾は必ず彼女の名前に声をかけてから行く。
「気ぃつけて帰れよ。」
いつもの如く、柔らかく笑いその場を去ろうとした黒尾。
「なんで、いつも声かけて帰るの。」
その冷たい言葉に、黒尾は足を止めた。
振り返り、少し彼女の様子を見ると「彼女だからに決まってるだろ。」と返事をする。
「本当に思ってる?」
名前の言葉を聞いた瞬間、黒尾は眉間に皺を寄せた。
「…まだ怒ってんのか?」
「すぐ妬くのなぁ。」と名前の元へ引き返し、その手を引っ張る。
教室を出て階段を下りてく黒尾の背に反省の色は見えない。
…もう、怒った。
いつも偉そうに見下す黒尾に、彼女から天罰が下される。
繋がれた手を乱暴に振り払った名前に驚いた黒尾は振り返る。
「本当に、好きなのかわからない。」
「え?」
階段で、通り過ぎる生徒が足早に彼女たちの横を通り過ぎていく。
黒尾は少し考えた後、「んーそう言われてもな…」と困った様子を見せている。
「いつも女の子とニコニコへらへら喋ってるところ見てるから…簡単に可愛い可愛いって言うから…鉄朗が…」
わからない。
ポロッと涙を零す名前。
「わりぃな。そんなに想ってくれてるとは、正直思ってなかったわ。」
「ツンデレ彼女は攻略が難しいからな。」と名前の元に身を寄せ、泣き顔を誰にも見られないように自分の胸元に引き寄せた。
そして彼は許しを請うのだ。
「許して、名前。」
「…じゃあ、キス。」
「…あんまり可愛いこと言うなよ。」
そう言ってすぐにでもキスしそうな彼に、キッと睨みつけた名前に「嘘だって。ごめん。名前ちゃん。」と笑って見せる彼のネクタイをグッと掴み引っ張った。
「ちょ…」
何か言おうとした彼の口を、彼女は自らの口で塞ぐと静かになった黒尾に口角を上げる。
「ゆるしてあげる。」
傲慢な私を赦してください
調子に乗りすぎると天罰が下る
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