▼ 繋がった手は心に触れない
真っ暗な、学校近くの公園で、名前は一人落ち込んだ心を立て直すべく考え込んでいた。
だが、一人だと思い返してしまうばかりで、終止符を打たれたことを後悔という気持ちと共に悔しさという気持ちが出て、自然と涙が溢れてくる。
頬を一筋の涙が伝った。
「あ!おい!研磨ぁ!それ、俺のだろーが!」
「うるさい、静かにして。近所迷惑。」
部活を終えた人たちだろうか、公園の横を騒がしく歩いていく。
一番最後尾で、そんな彼らを微笑ましく見つめている一人が不意にこちらを見た。
名前は視線をすぐ逸らし、ぎゅっと目を瞑る。
騒がしい声は次第に静かになっていって、ホッとし目をゆっくり開いた瞬間だった。
「苗字だろ。」
「!!」
誰もいないはずのすぐ傍に、最後尾にいた者が立っていた。
その人には、見覚えどころか知っている人。
「黒尾…?」
「こんな時間に一人か?」
「なにしてんだ?」とスポーツバッグを肩から下し、隣に腰掛ける彼。
「いや…ちょっと…帰りたくなくて。」と呟く。
名前の返事に、「ふーん。」と空を見上げた黒尾。
その横顔を見上げた名前は、「何も聞かないの?」と問いかける。
「…聞いて欲しくねぇんだろ?」
「だいたい、聞いて欲しいことなら、先に話すだろ。」と知ったような口調で話すが、その通りだと名前は俯いた。
「まぁ、苗字限定の対応だけどな。他の奴なら聞く。間違いなくな。」
そう言ってバッグを持ち、立ち上がると手を出す。
差し出された手に、疑問を持った名前は黒尾を見上げた。
「ほら、帰るぞ。」
「送ってやるから。」と彼女の手首を勝手に掴み、前を歩いていく。
その姿が、きょう、ひたすら思い出していた人と重なった。
涙を流す名前の手を離さず、立ち止まる様子すらなく前を歩く黒尾。
彼は涙を流す私に気づいていたが、
何も聞かず、ずっと私の手を握ってくれていた。
繋がった手は心に触れない
それが君の優しさ
-END-