Short Story | ナノ


▼ いっそ嫌ってくれたらいいのに

「…。」


研磨の視線の先にいるのは、いつも中庭で楽しそうに何かしている名前の姿。
彼女でなければ、友達というほどよく話すこともない。


しかし、彼女とは訳アリだった。


研磨が初めて恋した相手であり、高校に入ってから片思いし続けている相手だ。
関わりはある。

ただそれは、メッセージでのやり取り。



「なにを思って言ってるんだろう…」


体育館。
バレー部で幼馴染みの黒尾にそう問いかける。

つい最近送られてきたメッセージに疑問が重なっていく。


「何を思って“好き”なんていうの?」

「それはお前…好きだと思ったからじゃねぇの?」


「そうじゃなけりゃ、何のために言うんだよ。」とサーブを打つ。


「…そうだけど。」

「それで…どうなったん?」


返ってきたボールを再びサーブする黒尾。
研磨が「よくわからないから、放置。」と答えた瞬間、黒尾の真横をボールが通り過ぎた。


「は?」

「え?」


黒尾の相手をしていた海が「おーいどーしたー」と叫ぶ。


「あ、わりわり。」


ボールを取りに行く黒尾の背を見て研磨が溜め息をついた。


「あざとい女だな。」

「…。」

「好きって言ってくるんだろ?」

「らしい。」

「うん、いやな女だな。」


夜久と黒尾が研磨の話をする。
本人は無言でその会話を聞いていた。


「…俺ならそれを逆手に取る。」

「は?どうやって?」


夜久が口角を挙げて楽しそうに話した。


「本当に好きなのか?って、攻める。」

「えー…お前守備専門だろ?」

「それはバレー。」


二人の会話を聞いて、研磨が呟いた。


「もう、めんどうくさいし…いっそ、嫌われたほうがいい気がする。」

「「…。」」


研磨の姿を見た黒尾と夜久は溜め息をついた。


「…諦められねぇから、悩んでんだろーが。」

「…。」


バツが悪そうな顔をする研磨。
黒尾が言う。


「つれぇな。諦められねぇってのも。」

「…。」


3人が思いつめた表情をする。
その場を見ていた他の部員たちが心配した。


大丈夫かな、先輩たち…と。


いっそってくれたらいいのに
本当に好きな人ほどツラい


-END-

[ back ]