▼ ピースサインでちょんぎるぞ
「…。」
「…。」
いつにもまして、黙っている黒尾を心配しているのか研磨がジッと見ている。
その姿を遠くから夜久と海が見つめる。
「アイツ今日変だよな。」
「おう。何かあったのか?」
「だろうな。」
「でも何だろうな…?」と夜久と海が話しているのを聞いたマネージャーの名前が立ち止まって黒尾の様子を見た。
「…フラれたんじゃないですかね。」
「うお…」
「びっくりした…え、聞いてた?」
夜久の問いかけにコクリと頷く名前に夜久は「いつからいたんだ?」と思った。
「ってか、フラれたって、マジ?」
「たぶん…」
「おい!そこ!喋んな!」
ゲッと3人は思った。
話題の主が叫ぶ。
慌てたように練習に散った2人とマネージャーはパタパタと自分の仕事に戻る。
その様子を見て溜め息をついた黒尾は声を出した。
「よっしゃ、トスよこせ!」
休憩中、ずっと様子を見ていた研磨が黒尾に声をかけた。
「クロ、今日やたら力んでる。」
「…あ?」
「力んでる。」
「…うるせぇ。」
ゴクゴクとドリンクを飲む研磨。
ボトルから口を離すと独り言のように言った。
「フラれたくらいで、あからさまに…」
「なんだと?聞こえてんだよっ」
黒尾の声に夜久が名前が言ったことは確かなのか…と二人の間に入ろうとしたとき、名前が前を通って行った。
「クロ。」
「…え?」
「名前、やめときなよ。また泣く…」
研磨に止められたがそれを阻む名前。
以前、黒尾と研磨の小さい口論を止めに入ったものの、黒尾がかなり苛立っていたのもあって言葉巧みに攻められ何も言い返せぬまま涙を流す羽目になった。
それを研磨に慰められる始末。
「フラれたくらいでなにさ。」
「は?」
「部活は苛立ちをただただボールにぶつけて強くなるためにあるんじゃない!」
部員たちの注目の的。
名前のキレている顔を見た夜久が「おい、苗字、やめろって。」と止めに入る。
「主将のくせに…クロのくせに…調子に乗んなぁ!!」
そう言って手に持っていたボトルのふたを開ける。
やばい!と思った夜久の伸ばした手は阻まれた。
「惜しかったね…」
「おいおい、誰が拭くんだよ。ばか。」
研磨の言葉に、夜久が呆れる。
黒尾の髪は普通の髪になっていた。
ポタポタとスポドリが彼の髪から滴る。
顔を上げた黒尾に周りはひやひやする。
怒鳴る、キレる、殴るんじゃ…なんて考えている部員たちの気持ちとは裏腹に夜久が「苗字ナイスだ。」と言った。
黒尾はふっと笑うと髪をかき上げて立ち上がる。
「スッキリしたわ。名前。」
すっかりいつもの主将の姿に、彼女はピースサインをした。
ピースサインでちょんぎるぞ
度胸あるマネージャーはいかがですか
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