▼ 転がるご機嫌捕まえて
森然高校の長期合宿中のとある1日。
マネージャーの部屋で携帯画面を見ながらご機嫌な名前。
画面には“ばかやろう”という文字。
「へへ…」
敷かれている布団の上でゴロゴロしながら、頬を染めてニヤニヤしている名前を見て烏野のマネージャー谷地に「名前さん顔ニヤニヤしてますね。」と突っ込まれる。
「うへへ…」
「彼氏さんですか?」
「うん…なんだけど…何なんだろう…同じところにいるのに…この階を隔てた距離感が…」
「気持ちを高ぶらせるんですね!!」
「そう!」
「わかる?!」と布団でゴロゴロしながら会話する二人にガラッと教室のドアが開かれる。
二人しかいないため、谷地と名前は驚いたようにそちらを向いた。
「返せよ、ばかやろう。」
噂をしていた黒尾の姿だった。
谷地が「ね、ね、音駒の主将さん…」と口を大きく開いたまま固まっている。
「く…黒尾…」
「ちょっとそいつ借りていい?」
谷地はどうぞどうぞと変な手つきで名前を追い出す。
教室を出ると黒尾が「聞いてたぞ。」と不敵な笑みを向ける。
「な、なにを?」
「距離感が気持ちを高ぶらせるって?」
「う…」
いつからいたんだこの人と疑いの目を向ける名前にニヤニヤする黒尾。
「なんか、こういうのもいいよな。」
「ん?」
「メッセージしてる最中の顔が見れるって。」
「は?!」
夜の高校の廊下に名前の声が響き渡る。
「ばか、うるせ。」と瞬時に口をふさがれた。
「見てたんですか…」
「見てました。悶えてるところ。」
ニヤリと笑う黒尾から視線を落とす。
恥ずかしすぎる…。
「いつもああなわけ?」
「なわけ…」
「…かわいーじゃん。」
「え?」
「って、思った。」
真っ赤になった顔を見られないように俯かせるが、覗かれては元も子もない。
ばっちり目が合うと黒尾が「ほんっと素直だなぁお前。」と頭を撫でられる。
「なんで突然“会いたい”なんて言い出したんだ?毎日会ってんだろ。しかもこの一週間同じ場所にいるんですけど。」
「う…なんか、だから…距離が。」
チラッと隣の黒尾を見上げてみれば、彼はジーッと名前を見ていた。
その視線に囚われては、もう逸らせない。
距離が縮む。
黒尾が屈むと同時に背伸びをすれば、そのままゆっくり唇が重なる。
「…なにやってんの?」
ギクッとした。
誰もいないはずの場所に…
「け、研磨。」
かなり怪訝な表情をした研磨の姿があった。
「見た?」
「…べつに。」
いつも以上に冷たい視線を向けて一瞥すると研磨は言った。
「こんなところで盛らないでよ。」
「…。」
次の日から、名前は黒尾にメッセージすら送らなくなったのだった。
転がるご機嫌捕まえて
べつに、って言葉で気づきましょう
-END-