Short Story | ナノ


▼ 厄介なのです、優しい人は

彼氏は、黒尾鉄朗。
音駒バレー部、主将を務めている。

そして私はマネージャーをしているけれど…


「名前ードリンクくれー」

「はい。いますぐ…」

「名前ータオル。」

「はい…!」

「名前さん!リエーフがドリンク口から垂らした…」

「えっちょっと待ってて!タオル持ってく!」


バタバタし始めた彼女をジッと見ていたのは研磨だった。


「名前、大変そうだからクロ、自分で取りに行ったほうが早いと思うよ。」

「ん?」


あっちぃーとシャツをパタパタしていた黒尾を見る研磨。
黒尾は研磨の言葉にチラッと彼女の働きっぷりを見る。

リエーフにタオルを渡し、犬岡たちの様子を見て何やら言っている彼女の姿にふっと笑う。


「俺のほうが先に注文したのによー。」

「…クロだから後でもいいって思ったんじゃない。」


名前が聞けば、恐らく「なんてこと言うの!この子は!」と研磨を怒っていただろう。
黒尾は怒っている彼女を想像して笑みを浮かべると重い腰を上げた。


「夜久ーそのドリンクどこから…?」


ゴクゴクドリンクを飲んでいる夜久に問いかける黒尾。
夜久は首にかけたタオルで汗を拭いながら「お前の彼女からだよ。」と嫌味ったらしく言ってのけた。

黒尾はなんか腹立つなぁ、と思いながら騒がしい1年とマネージャーの元へ向かう。


「名前。」

「っ…」


グイッと軽く引っ張っただけで、彼女の身は半分宙を浮く。

驚いた名前が見上げた先には眉間に皺を寄せた主将の姿。
げっと思った。


「ごめ…おこ…?」


「ごめん、怒ってる?」と問いかけるつもりが、語尾がしっかり発せられていない。
怖い、彼の表情のせいだろう。


「ちげぇよ。お前軽すぎんだろ。」

「え?」

「片手で抱き上げれるってどういうことだよ。ほっせぇなぁとは思ってたけど…」


「あまり軽い彼女はいりません。」と不敵な笑みを向けて腕を話した黒尾。

名前は目をパチパチさせた。



「じゃあ名前さん俺にください!」

「リエーフ。」

「…え?」


ガバッと抱き上げられた名前を担ぎ、ニヤリとリエーフを見る黒尾。


「しっかり拭いとけよ?滑って捻挫でもしたら名前にまた手間かけさせることになるからな。」

「ちょ…どこ行くの?!」

「ドリンクくれっつってんの。」


「「…。」」


ドリンクを取りに体育館を出る二人。
取りあえず、と黒尾が彼女を下ろす。
しゃがんだ黒尾の肩をガシッと掴んだ名前を見上げる黒尾。


「マネージャーなの!ちょっとは待っててくれたって…」

「彼氏だからって?」

「…え?」

「それは、舐めてるだろ。俺を。」


そう言って彼女の肩を抱き寄せる。


「お前この前俺に妬いてたくせに…人に言えたことか?」

「え?」

「部員を構いすぎ、ちょっとは私を構え。」

「そんなこと言ってない!マネージャーだし…部員たちに構うのは主将の…」

「優しい彼女も、厄介だよなぁ…しかも、マネージャーしてるしな。」

「黒尾?」


珍しく、本音を言う彼に少し心配になった名前が黒尾の背に手を添える。


「主将は優しいから、待っててくれるって思ってんの?」

「っ…だから、ごめん、なさい。」


そう思ってた、と言わんばかりに謝った彼女に溜め息をつくと言った。


「じゃあ、“大好き”って言ってみ。」

「えぇ…」


「このイチャイチャ、いつまで続くんだ?」と体育館から見ていた部員たちが溜め息をついた。


厄介なのです、しい人は
全部俺にくれって言ったっていいじゃねぇの


-END-

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