Short Story | ナノ


▼ 気持ちは、君にあげる

部活を終えた後の、自主練習の時間。
ボール籠をガラガラと押しているマネージャーの名前の姿を見つけた夜久が声をかけた。


「名前ー。練習付き合って。」

「え、私でいいの?」

「おー。」


そう言ってボールを掌に乗せ、右手でそのボールを叩く。


サーブだ。


ふわりとネットを超えたボール。
そのボールは床を撥ね、リエーフの足元へ転がった。

ジッとその姿を見ていると、夜久がネットを挟んで向こう側のコートを指さした。


「なに見てんだよ。あっち。」

「うん。」


駆け足でコートに入る名前は、籠からボールを持った夜久を見て思った。


リベロは…サーブしないからかな…
すごい、瞬間を見た気がした。


先ほどのレアなサーブ姿を思い出して心が躍る。


「サーブ打って。どこでもいいから。」

「はーい。」


ボールを受け取ると、サーブの位置へ移動する。


先ほどの夜久の姿を思い出しながらボールに意識を集中させる。
その時、視界に入っている夜久の口角が上がったのが見えた。


「ネット越えろよー。」

「なっ…ふざけるなー!」


ネットくらい入るわ!と名前はサーブを繰り出す。
見事綺麗に入ったサーブを夜久が綺麗にセッター前へ返す。



「おー。うまいうまい。リエーフよりまともじゃん。」

「リエーフと一緒にしないでくれませんかー」

「ちょっと、二人して酷いっすよ…!」



隣のコートでリエーフが話を聞いていたらしく、叫ぶ。
夜久が「じゃあもっと練習しろー。」とボールを彼女へ送った。


再びサーブをした名前のボールを返す夜久。
しっかりセッター前に返球した。

その様子を見ていたリエーフが「俺も!俺も練習入れてください!」と黙ったままではいられないとサーブの位置にくる。


「リエーフ!やるからにはしっかり入れてくれよ!」


名前をセッターへ回した夜久はリエーフを叫ぶ。
リエーフのサーブは言わんこっちゃない…とばかりにネットへ直進した。

力なく落ちる。


「ざっけんなお前、リエーフ!」

「す、す、すんません。次こそは!!」


真剣に構える夜久の姿を見て名前もリエーフを見る。
心を落ち着かせたリエーフはサーブを上手くネットの向こう側、夜久たちのいるコートへ入れた。

綺麗に返されたレシーブは名前の頭上に向かってくる。


セッターポジションに立って、初めてわかる…夜久の凄さ。


恐怖さえ、感じた名前はそのボールを上げた。

そこへ一瞬にして食らいついてきたのは、さっきまで向こうのサーブポジションにいた彼が高く跳んでそのボールを打った。


「……え。」


まさか、リエーフがスパイクをするなんて全く想像していなかった名前は焦る。


「ちょ、ちょっと!私なんかのトスで…」

「名前、すごいね。」


セッターの研磨が黒尾と傍観していたらしく、コートの外から声をかけた。


「え…なんか、ごめん。」

「なんで?リエーフが合わせたわけでもなさそうだし…まぐれでも、すごい。」


研磨が嬉しそうに言う。

名前は知っている。
彼が嬉しそうに話すときは、大概何かを企んでいるときだと。


「さすが夜久の練習相手してるだけある。」

「なんか腹立つ…黒尾。」

「夜久さん!」


リエーフが夜久に近寄る。
「俺にも夜久さんのトス上げさせてください!」
その発言に、夜久は「ばーか言うな。」と続ける。


「レシーブは名前に上げんだよ。」

「えっ」


名前は驚いた。
夜久へ視線を向ける。


「えっズルいです!俺にください!」

「お前トスできねーだろー」


「やってみせます!」と胸を叩くリエーフに呆れた視線を向ける夜久。


「なんでもできると思うなー。」

「う…黒尾さん…」


リエーフが黒尾からの言葉にショックを受けてる背で夜久が名前に言う。


「名前。」

「…。」

「俺の気持ちだと思ってちゃんと上げろよ。」

「…え?」


ニッと笑った夜久が「なーんてな。黒尾みたいなこと言えるか。」と手に持ったボールを起用に回す。


その姿にムッとした。


気持ちは、君にげる
それは想いを乗せたものに限る


-END-

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