Short Story | ナノ


▼ あまえんぼうへの花言葉

家の縁側でぼーっとしていた研磨。
暑苦しいほどにセミの鳴く声と、熱い風と照り付ける太陽の光。

風に揺られている大きなひまわりが目に入る。


なんか…名前みたい。


ひまわりの上に研磨の視界には彼女の名前の姿が浮かんでいた。


いつも通り、部室を出た時だった。


「お、名前。」


黒尾の声と共に研磨の視線が上がる。
その時にはすでに遅かった。
勢いよく抱きしめられた研磨の身は拘束状態。
とびっきりの笑顔で研磨を見上げる名前を見て、「やっぱり、ひまわりみたい。」と昨日見たひまわりの花を思い出していた。


「研磨っ」

「…ちょっと、みんなまだいるから。」


「離して。」と身を捩る研磨に名前はムスっとすると素直に身を離した。


「まさか研磨が甘えられる立場になるとはねぇ。」

「…。」


黒尾の声に眉間に皺を寄せた研磨は「クロいるからいい。」と呟く。
その言葉に黒尾が「はいはい。」と手を挙げて去っていく。

名前は黒尾の背を見つめながら「黒尾先輩って、兄弟いるの?」と問いかける。
研磨は首を横に振った。


「ううん。一人っ子。」

「にしては、面倒見がいいよね…」

「そうだね。」


くだらない会話をしながら帰路につく二人。


「なんか、名前見てると…翔陽思い出す。」

「しょうよう?」


誰?と首を傾げる名前に、研磨は翔陽こそ、ひまわりのみたいな人だ。と思っていた。


「名前、ひまわりみたいだよね。」

「え、なにそれ。元気っぽいところ?」

「元気じゃん。」


やる気をあまり醸し出すようなことがない研磨にとっては名前も翔陽も何倍も元気に見える。

名前は研磨に手を差し出す。


「…なに?」

「なにじゃない!手!」

「えー…」

「手!」

「ゲーム…」


すでに片手にはゲームを準備していた研磨だが、名前はニコッと笑顔を向けると有無言わさず手をとった。


「あっアイス食べてこ!」

「…早く帰ろう?」

「お願いー」


と繋いだ手をぶんぶん振る彼女に、溜め息をついた研磨は思った。


…甘えてるっていうんじゃなくて…ただのわがままなんじゃ…。と。

しかし、そう考えたとき黒尾に言われた言葉を思い出した。


「わがままと甘えるはちげぇんだよ。我が儘ってのは自分の意志だけを貫いてくヤツだけど、甘えるってのは可愛く、かつ、おねだり。」


思い出すと、眉間に皺が寄る。



「意味わかんないし…」





「研磨!見てみてっ新しいアイス!」

「…。」


アイスボックスの前で可愛らしい笑顔を向けて手招きしている彼女。
研磨は無言で近づいた。


「うちのひまわりあげる。」

「えっいいの?」

「うん…名前見てたら、なんか…面白そうだから。」

「?」


アイスを片手に、手を繋いで歩く二人。
ひまわりを持って満面の笑みを見せる彼女を想像すれば、ふっと笑みが零れた。


「花言葉は、自分で調べてね。」

「ん?うん?」


「花言葉?」と研磨に首を傾げた彼女の手からアイスがポタッと落ちた。


暑い…。早く帰りたい。


まえんぼうへの花言葉
あなただけを見つめる


-END-

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