Short Story | ナノ


▼ 今日もあなたが好きでした

音駒高校、2年3組。
同じクラスのプリンヘッドのバレー部員、孤爪研磨に片想い中の名前は視線が彼を自然と探し、追っていた。

同じクラスだからできる特権というのは、好きな人のことを見ることができることと、話すことができる確率が数倍も高くなるということ。

名前は、彼を見てはいつも自分の席でゲームをしているか、寝ているか、いないときは3年生で同じくバレー部の黒尾先輩に連れていかれているかのどれかだ。

今日は外があいにくの雨で校内の電気がとても存在感を出している。
外はどんより曇り空で、頭痛がしてきそうだった。

そんな日の朝、研磨が教室に入ってきた。
目立つその存在感は、すべて髪の毛のせいだろう、クラスメイトがちらちらと視線を向ける。

朝からスッキリしない気持ちで席に座っていた名前だったが、そんなこと彼がいれば彼女にとってとても小さなこととなる。


好きな人とは、楽しくない場所でも楽しくさせてくれるものである。


彼はそんなこと全く知らないが、一つ日課となっていることがあった。


「おはよ。」

「…おはよ。」


朝の挨拶だ。
名前の横を通って彼は席へ着く、それまでに必ず彼女は挨拶をする。

研磨もまた、彼女との挨拶はいつものこと、となっておりしっかり返す。

彼のほうが席が後ろにあるため、授業中の姿を見ることができないのが名前にとって残念な点であるが、そんなこと、この挨拶があればなんでもなかった。


朝の挨拶一つで、彼女は一日元気でいられるのだから。


そんな彼女に、この日、とんでもないことが舞い込んできた。
日直だったため、今日が提出最終日である課題のノートを集めて職員室へ向かったが、その教科の先生に「これ、孤爪くんに返しておいて。」と軽く手渡されたノート。


先に課題を提出していたらしい彼のノートの表紙には彼の名前があって、それは彼が書いたもの。

達筆…っていうのかな。

なんとも言えない字を見ながら階段を上る。

雨嫌だな…。
でも、今日はまた喋れるチャンスが来た!
雨も悪くないなぁ。

なんて思いながら教室に入ると、彼はいつものようにゲームをしているようだ。
席に近づき、「孤爪くん。」と声をかける名前。
びくっと肩を揺らし、ゆっくり顔を上げた彼は彼女を見るなりすぐ視線を逸らして「苗字さんか…」と少しほっとした様子を見せた。


「がっかり…?」

「そうじゃなくて…知らない女子に、またノート催促されるのかと思って…」


「めんどくさいな…って。」とゲーム機を膝の上に置くと「用が、あるんでしょ?」と僅かに首を傾げる研磨。


その姿に、きゅんとしながら名前は「これ。」とノートを差し出す。

ゲーム機から左手を離し、それを取るとじっと見つめた研磨に「さっき、先生に渡しておいてって頼まれたの。」と伝えると納得したように机の上に置いた。


「ありがとう。」

「っ…」


ふわっと微笑んだ研磨を、名前は見逃さなかった。
一瞬のことだった。

すぐ俯いた研磨から、一歩一歩踏みしめながら自席へ戻る間、


彼女は感じたことのない胸の高鳴りを覚えた。

それは、恋の病。


「…やばい。」


やっぱり、好き。

そう思った彼女は机に伏せて、彼の笑顔を思い返していた。

今日もあなたがきでした
間違いなく恋してる


-END-

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