Short Story | ナノ


▼ 嘘でも泣けないくらいに

同じクラスの夜久衛輔。
私の、1年の時から仲良くて…好きな人。

いつ告白しようか、もう3年になってしまった。
などと考えていたある日…


彼女ができたらしい彼は、同学年の女の子と親し気に歩いていた。

その日、カラ元気だった私にいち早く気づいたのは…


「おい、名前…って、どうした?元気ないな。」


夜久、本人だった。
放課後、教室でぼーっとしているところに、部活する姿で現れた彼に顔を覗かれる。
視線をフイッと逸らすと口を開く。


「そいえばさ、夜久、彼女できたの?」

「えー?」


「うーん?」と恍けたように曖昧な返事をする夜久から視線を逸らすなり、俯く。



「好きな人?」

「…まぁ、いるけど。」



「今部活で忙しいしなぁ。」と話す彼の声を右に、堪えていたものが零れる。



「名前?え…泣いてんの?」

「泣いてない。」

「何でそんな嘘つく…泣くほど嫌なわけ?」


ゴシゴシと制服の袖で涙を拭う名前を前に困った顔をする夜久。
名前は立ち上がろうと地に手をついた。

しかし、夜久の手によってそれは妨げられる。


「質問に答えろよ。」

「うぅ…また泣く…」

「はぁ…たく…」


しょーがねぇなぁ。と自分の着ていたジャージを彼女の頭に被せた。
それと同時に、ぎゅっと抱きしめられる。


どんな状況なのかとパニックになっている思考で考える名前の涙は、止まっていた。



「泣いてたってわからねぇだろ。」

「…何で、彼女いるのに抱きしめてるの?」

「今は俺が質問してるんだけど…?」



「それ答えたら答えてやる。」と真っ暗なジャージの中優しい声だけが聞こえる。


どんな表情をしているのかは、まったくわからないけれど…優しい顔してくれてるのかな…。



「夜久…。」

「うん。」

「すごい…すき。」

「…うん。」

「だから…」

「…ん?」

「誰かのものになっちゃうなんて…思ってもなかったから…」



涙が再び溢れ出す。
もういい。
こうなってしまった以上、すべて言ってしまおう。

そして、スッキリしよう。


「それは、俺を軽く見すぎだったな。」

「…うん。でも、夜久も好きだから付き合ったんでしょ?なら…」


「私は、きっぱり諦める。」と口を動かそうとした瞬間、ジャージで暗かった視界が明るくなった。

頭から肩へ落ちたそれと、彼女の体ごと抱きしめるようにぎゅっと引き寄せた夜久のせいだった。


「諦めんのか?」

「…え。」

「じゃあ…」


ゆっくり、身を離すと視線が合うどころかそのまま唇に柔らかい温もりを感じた。


「諦めんな。」

「っ…」


至近距離で見つめられ、もう一度軽く触れる唇。
心臓がものすごいスピードで音を立てる。


「や…く…?」

「彼女いたら諦めるんだろ?でも俺、名前が好きだし。彼女いねぇし。だから諦めんな。」


早口でペラペラと話されたが、その言葉たちはすんなり思考に入ってくる。
理解をする。

そして、体温が上昇する。


「…彼女じゃ、ないの?」

「お前が勝手に彼女にしたんだろー?俺言ったか?彼女だよって。」

「言われてみれば…言ってない。」

「お前の、早とちり。」


「ただの友達。好きな人は別にいるから。」とにこやかに笑顔を向けられる。

理解ができたところで、名前は彼の腕を掴んだ。


「…泣くなよ。」

「…夜久。」

「…なに。」


そっと両腕を広げる名前、目には涙が溜まっている。今にも零れそうだ。
ふっと笑うと、「しかたねぇなぁー」と言うとにやりと笑う。


「その前に、言うことあるんじゃねぇの?」

「…。」


キッと涙が溜まったままの目を彼に向けた名前ににやにやと何やら企んでいるような顔を向けている。

そっと彼に涙を拭われた名前は、自分から彼へ身を寄せた。


「大好き。」

「うん。俺も。」


どちらからともなく唇を重ねた。


でも泣けないくらいに
素直になる、好き


-END-

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