Short Story | ナノ


▼ きれいごとは大好きです

私の幼馴染みは、モテる。

みんな、騙されるな。
その笑顔は作り笑顔。
詐欺師のような笑顔をしているだろう?


ジーッと幼馴染みの黒尾鉄朗を教室の片隅で見守る。
チラッとこちらを見た彼の視線とばっちり合ってしまった。

慌てて視線を逸らしたものの、「おい、名前。なに見てやがる。」と大きな声で言うもんだから立ち上がって睨み、ベーっと舌を出す。



「はいはい。かわいーねぇお前。」

「思ってもないこと言わないでくれますかー。鉄朗のこと好きな女の子が誤解するよ。」



それだけ言うと、教室を出て自動販売機へ向かった。


いつもそうだ。
彼の周りに女子が溜まることはなくても…どこかしらで彼のことを見ている女子がいる。

音駒高校バレー部主将。
イケメン。
面倒見がいい。
誰にでも気さくに話す人当たりの良い性格。

間違いなく彼のモテ要素だろう。


小さい時から仲良くしている幼なじみとしては、確実的にそうだと思う。


放課後、女子生徒と呑気に歩いている彼の姿を見かけた。


なんて可愛い子なんだろう…。
鉄朗のこと好きなのかな…。


突然視線をこちらへ向けた彼に、名前は慌てた。
当たりをきょろきょろ見て逃げ場を探すも、隠れるところすらない。



「名前ー。」

「っ…ご、ごめんなさい。」

「え?!はっなんで逃げる?!」



女の子に謝罪を申してから、名前はダッと勢いよく駆け出す。

その背をすぐ追う鉄朗に、即捕まった。



「何で逃げるんだよ。お前は。」

「だって…邪魔でしょ?」

「は?邪魔?誰が。」

「鉄朗が。」

「誰のことを?」

「私。」



はぁー…と盛大な溜め息を目の前でつかれて、目の奥が熱くなる。
面倒くさいって、思った。絶対。



「あのねぇ…ってお前っ泣いてんの?」

「泣いてない。」

「いやいや…嘘つくなあほか。」



丸見えなんだから。と頭の上に手を乗せられる。
いつものように、撫でられるのだろう…優しい鉄朗のことだ。

そう思っていたのに、その予想は外れた。



「お前のそういうの、嫌いじゃねぇよ。」



頭の上に、確かに乗せられている彼の手。
でも、いつもと違うのは…体の距離が0センチだということ。

腰に回されたもう片方の腕にぎゅっと引き寄せられては、逃げることもできない。

その前に…なぜ彼は私を抱きしめているのだろうか?
幼馴染み、ただの幼馴染みを慰めるために…ここまでする必要があったとか?

…いや、いつも頭を撫でられて鉄朗の笑顔を見て泣くのをやめていた。

のに、今日は…いつもと違う。



「そういうのって?」

「幼馴染みだからって、自分の気持ち無視して綺麗ごとばっか並べるところ。」



「よくご存じで…」と答えた後、感情が一気に込み上げてくる。


よく知ってて、よく見ててくれて…そんな彼に甘えっきりで…
本当は、私のだって言いたい。

でも、彼の周りにはたくさんの女の子がいて、そりゃ…こんな面倒くさいやつより…もっといい子がいる、だから…そういう子と幸せになってくれれば私はそれだけで、なんて…

言ったら、綺麗ごとだって言われるんだろうな。



「本当は、鉄朗が欲しい。」

「おぉ?」

「でも、私なんかより、可愛い子いっぱいいるし。その子との方が幸せになれるかもしれないし…」



ふっと笑う鉄朗。



「ほんとお前、綺麗ごとばっか…勝手に並べやがって。ふざけてんのか?」

「真面目に考えてる。」

「まぁ…寧ろ、大好きですけどね。」



ぎゅっと抱きしめる腕に、力を込めた黒尾。
彼の背にそっと腕を回すと涙が頬を伝った。



「うー…」

「はいはい。」



頭をポンポンと撫でられる。
ぎゅっと彼のシャツを握る。



「好き。」

「知ってるわ。すんげぇ前から。…ずっと手ぇ出してやろうと思ってたし。」

「え?」


不敵な笑みを浮かべている彼を見て、赤面した。


れいごとは大好きです
好きな人に限りますが


-END-

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