Short Story | ナノ


▼ 返しそびれた言葉たち

嵐のような…彼女って言えば、たぶん、誰もが納得する。
そんな彼女。



「研磨!」



教室でゲームをしていたら、名前が来た。
真っ黒な肩より少し長い髪、毛先がくるくるしてる…「いつも思うんだけどそれはわざとなの?」って聞きたい…けど、聞く間を名前はなかなかくれない。



「…そんな大きな声出さなくても聞こえる。」

「うそ!この前ゲームに夢中で無視したもん!」



机に両手をつけて俺を見下す名前から、何の匂いなんだろう…洗剤なのかな、それともシャンプーなのか…良いにおいがする。

そんな名前はムスッとしてフイッと大袈裟に顔を背ける。



「え…」



“そうなの?ごめん。”って言う前に、彼女がパッと先ほどの表情とは打って変わって「そう!あのねっ」って話を変更してしまった。

また、言えなかった。


まぁ…いつものことだし…。
いっか。



「うん。なに?」

「あのっ…そ、の…」



名前の様子が変わった。
俺の顔を見て、いつもならスラスラ話をするくせに、固まっている。



「…名前?」

「うっ…あれ、何だったっけ。」



俺から視線を逸らした名前は視線をあちらこちらへ向けて動揺しているように見える。
けど…なんでだろう。



「顔赤いけど…」

「えっ…き、気のせいでしょ!」



なぜ顔を赤くしたのか見当もつかないけれど…普段と違う彼女に自然と笑みが零れた。



「け、研磨さ…」

「うん。なに?」



俺の机に両手を置いてしゃがみこんだ名前。
やっぱり、ほんのり顔が赤い。

なんか…ちょっと可愛い気がする。



「私の、いやなところある?」

「嫌なところ…」

「うん。」



ジッと見つめられて答えを待っている名前から視線を逸らす。
「うーん。」とうなる俺を見る。



「でも、それなくなったら…俺の好きな名前じゃなくなるんでしょ?」

「…研磨。」

「ねぇ、気になってたんだけど、名前っていい匂いする。なんのにおい?」

「え…何かな。」

「あと、無視することはないから、何回も呼んでいいよ。」

「え…うん。」

「あと…」



いつにもましておとなしい名前の頭を撫でる。



「ちゃんと、俺の話も聞いて。」



嵐のような君だけど、そこも含めてちゃんと見てるから。



「…は、い。」


しそびれた言葉たち
言わずに後退、言って前進あり

-END-

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