Short Story | ナノ


▼ どこまでも君が続く

「孤爪くん。」

「…。」



ニコニコして、ゲームをしている研磨に声をかけた名前。
しかし彼は無言のまま指を動かし続けている。



「孤爪ー?」



それでも反応のない彼に、彼女は「研磨くん?」と無理やりにでも彼の視界に入ろうとしている。

相変わらず視線を全くこちらへ向けてくれない研磨に、名前は「研磨。」と優しい声で呼ぶ。



「…なに?」



指を止め、ゲームからちらっと視線を向けた研磨。
名前はきゅんとした。



「うー…好きです。」

「うん。知ってる。」



堪らなくなり、言いたくなった名前の言葉をいつものように流した研磨。
ムッとする名前は研磨に「研磨ぁ…もうちょっと構ってくれたっていいじゃないですか。」と首を傾げる。


黙っている研磨に頬を膨らませているとその頬を不意をつくように、押す研磨。

ハッとした名前は視線を上げる。
わずかに、微笑んでいる研磨。

やっぱり、好きだ。とその指をそっと掴む名前。



彼のこういう顔を見ると、何もかもがどうでもよくなる。
これが彼の一種の愛情表現なのだ。


つまり、好きってこと。



「研磨、キスしたい。」

「え。」



とてつもなく怪訝な顔をして「ここ教室だから。」とフイッと視線を逸らされてしまった。

とてもとても不機嫌になってしまった研磨を目の前にガーンと落ち込む名前。



「でも嫌じゃないんだね。」



言葉を思い出して、考え直して、こうして立ち直る彼女はいつも通りだ。
研磨は「別に…したいとも、したくないとも、思わないだけ。」と言う。



「…本当に私のこと好きなの?」



なんてたまに意地悪なことを言ってみる。

一瞬指の動きを止めたような気がしたが、それはすぐ再開された。
口を開く様子もなく、難しい顔をしている研磨を見てため息をつくとしゃがみこんでいた体を起こし“今日はここまでか…”と諦めるように去ろうとする彼女に、研磨が手を伸ばした。


制服を思いっきり捕まれており力の差で一歩足が戻る。


そのまま斜め後ろに視線を向けてみたら、研磨の腕が伸びてチラッと視線を向ける。



「…暇なんでしょ。」

「…ん?」



どういう意味かな?と首を傾げてわからないふりをしてみる。

研磨はムッとした顔をして俯くと制服から手を離した。



「…もうちょっと、いたら?」

「…。」



ツンデレ。
そして、素直に言わない。



「好きだよ。」

「…は、え?」



ぼそっと背後から聞こえてきた声に、慌てて振り返る。
俯いていてその表情はわからないが、恐らくとてもじゃないけど…



「…。」

「な、に。」



彼女しか見れないものなんじゃないのかな。



「…ダメだ。私が恥ずかしいです。」



「聞いたの名前じゃん。」と言っておきながら、顔は赤いままの研磨に微笑む。



「可愛い研磨。好き。」

「…好き好き言い過ぎると効果がなくなるって知ってる?」

「えっ?!そうなの?!」



「駄目だよ、それは…この先ずっと言い続けなくちゃいけない言葉なのに…自重しよう。」と項垂れる彼女に、研磨が微笑んでいたのを彼女は見逃していた。


どこまでも君が
君しかいないからずっとこの先も


-END-

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