Short Story | ナノ


▼ 邪魔者よばわりですか


体育館の準備室。
なぜか、これから始まる部活を目前にして、目の前の高身長、美男子を見上げている私。


「俺、一応カレシなんだけど。」


リエーフの言葉と、彼の瞳が訴えている。

「俺は怒ってる。」と。



事の発端は、恐らくきのうの部活中でのことだろう。

休憩に入った部員たちの元へ数十本のドリンクが詰められたカゴをよいしょよいしょと運んでいるところに、


「名前ー!!」

「ぐっ…ちょ…」


背後のどこから現れたのか、私の背中からガバリと抱擁してきた少年。
声でわかる、一応好きな人だから。


「リエーフ…どいて。」

「えーイヤだ。」

「…ふぅ。」


声色からして上機嫌なことがわかる。
でも、手にしているのは重いドリンクたち。

それをゆっくり降ろすと、一度深く呼吸を吐いた。


「…邪魔。」

「…じゃっ?!」


チラッと振り返り、そう一言言い放つと、私は再びカゴを手に休憩している部員たちの元へ向かった。

そこで、見ていたらしい犬岡が「苗字、リエーフに厳しいよな〜」と言う。
ドリンクを手渡し、口を尖らせると「あぁ言わないと仕事できない。」と言った。

私の言葉を聞いた夜久先輩が「まぁアイツをあそこまで追いつめることができるのは彼女あってのことだな。」と、入り口でショックを受けてトボトボとこちらへ歩み寄ってくるリエーフの姿を見ながら苦笑いをした。

そう言う夜久先輩だって、レシーブ練となればリエーフに容赦ない。
見ているだけなのに、外野が話しかけにくいほどに夜久先輩は鬼と化するのだ。


きのうは、それだけではなかった。
恐らく、根源はその一件がきっかけなのだろうが、いつも以上にリエーフのスキンシップが激しかった。


「きょうはやけに荒れてるじゃねぇの。リエーフ。」と黒尾先輩に言われ、本当にその通りだと思った。

その都度、彼を拒むことになりさらに悪影響へ…


そして、現状に至っている。


「俺、一応カレシなんだけど。」


その一言に、カチンと来た。


「部活の時は、彼女というよりマネージャーなの。それでなくても大会前で忙しいんだからリエーフも…」

「でも、部活の時だって、名前は名前だ。マネージャーの名前だって、俺の彼女には変わりないだろ?」


そりゃ、そうなんだけどさ…と困る。
彼に一つのことを伝えるには、相当な労力が必要になる。


理解の仕方が少しズレてるからだ。


うーん…と唸って、伝え方を考える私を見てリエーフは首を傾げた。


「…それとも、俺のこともう好きじゃないとか?」


んん?


その言葉には、さすがの私も反応せずには居られない。
全力で否定する。


「それは違う!なんでそういう解釈になるのよっ」

「だって何も言ってくれないじゃんか!!」

「何も言わないからって勝手に嫌いにさせるな!」

「嫌いとは言ってないだろ?!好きな気持ちがなくなったのか?って聞いた!」

「だからそれは違うってば!!」


「おい、お前ら。」


「「!!」」


とうとう、口論となってしまった私たち。
その間を止める者はまだここ(体育館)にはいない。

はずだった。


しかし、目の前のとてつもない暗黒なオーラを放っているのは、間違いない。


「黒尾さん…!」

「黒尾先輩…」


真っ赤なジャージを着て、どーんと仁王立ちで腕を組み、見下す黒尾の姿だった。


「君たちねぇ…彼女のいない俺への嫌がらせですか?」

「え…?」

「いや、違う。嫌がらせでも、たとえそうじゃなかったとしてもだ…」

「…。」


ゴクリと、喉を鳴らせる二人を黒尾が口角を挙げて言い落す。


「準備室でイチャイチャすることは断じて許さねぇぞ。」

「…。」


言葉を失った名前とリエーフは、黙って準備室から出ると後悔の念に追いやられる。

そして、


「…ごめん。リエーフ。」

「いや、俺こそ、理解が足らなかった。」


謝ると、いつもの二人の姿がそこにはある。
しかし…


「じゃあキス。」

「えぇ。」

「仲直りといえばキスでしょ?!」

「それはリエーフ、何かの見過ぎ。」

「何かって何?!」


「テメェら…」


部活で、相変わらずな私たちを見た黒尾先輩の怒りが、何度かに渡って落ち続けた。


魔者呼ばわりですか
邪魔よも愛の内


-END-

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