Short Story | ナノ


▼ ありえないほど無反応



脈アリなのか脈ナシなのか、わからない。


「ほんと、読ませてくれないセッター。」


他校の選手が、彼をそう呼ぶのも無理はないと思う。
だって…


「ねぇっ研磨っ」

「なに?」


ボールを持ってチラッと視線を向けた研磨にズンズンと近寄ると研磨は怪訝な顔をして一歩一歩と退がる。

そんな彼の手からボールを奪うと「私のこと好き?」といつもの如く問いかけた。

なんだいつものやつか、と研磨は表情一つ変えずに言う。


「うん、好きだよ。」

「っ〜だから、そうじゃなくてっ」


まぁた始まったぞ。と周りで様子観察している部員たち。
その中でも特に黒尾はニヤニヤと楽しそうにしている。

名前の言葉に、ん?と首を傾げれば研磨は「好きか嫌いかなんて、そんなの決まってるけど…。」と更に違う方向へ持って行ってしまった。

ぶっ、と吹き出し、必死に笑いを堪えているのは黒尾と夜久。
その隣で山本が「研磨は鈍感なんだな〜」とニコニコしている。


もはや、彼女の研磨への問いかけは、音駒高校男子バレー部の名物と化していた。


「ほんっと読ませないセッターです。…イヤだ。ホント、やだ。」


そう言ってボールをレシーブする名前。
彼女の手から放たれたボールはリベロの夜久の元へ。


「惚れた弱味だな。」

「う…何も言えないです。」


「あはは。」と笑う夜久。
ポーンポーンとラリーは続く。


「脈アリなのか脈ナシなのかもさっぱり…」

「うーん、俺から見ると脈も何も無いと思うけどな。」


夜久の言葉に、名前はボールのコントロールを誤った。
跳ね返されたボールは明後日の方向へ飛んでいき、レシーブ体勢のまま固まる。


「それって…つまり…研磨は私のことただのマネージャーとしか思ってないということですか?」

「え、いや。そうじゃなくて…」


夜久が落ち込む名前を見て近寄ると、否定を意味するように首を横に振る。


「俺が言いたいのは、逆だ。」

「…逆?」

「うん。あ、研磨。」


明後日の方向へ飛んでいってしまったボールは、どうやら端で休憩していた研磨のものへ届いてしまったらしい。

黙ったままそのボールを夜久に渡す研磨。


「名前、練習しよ。」

「え…」


固まる夜久と名前。
二人の心の中は複雑だった。


研磨が、練習をする?


二人の反応を見た研磨は視線を逸らし、「嫌ならいい…」とだけ言うとどこかへ行こうとする。

それを見た夜久は、あぁ、そういうこと。と研磨の態度から納得した。
名前は慌てて研磨の服を掴み「する!嫌じゃないっ寧ろ嬉しい!」とありったけの表現をして見せた。


「…名前。」

「ん?」


チラッと彼女を見て、視線が合うと言いにくそうに顔ごと逸らす。


「名前は、毎日おれに同じこと聞いてくるけど…なんで?」

「え…それは…研磨の素直な気持ちが知りたくて…」

「おれ、全部本当のことしか言ってないけど。」

「わかってるけど…」

「わかってない。」


キッと睨まれ、思わず身が震えた名前は1歩後ずさりをした。


「わかってたら、毎日聞かないでしょ…」

「っ…だって…研磨わかんないよ。」


毎日同じこと聞いてたって、普通に好きとか言うし…
それからは何も示さない。

態度にも、なにも。


「なんで毎日同じこと聞いてくるのかわからない。」

「私だって研磨が私をどういう目で見てるのかわからない…」


その言葉に、研磨は「おれは好きとか、言わない。」と呟いた。


「名前は毎日おれにそれを聞くけど…ちゃんと答えてるでしょ?」

「…うん。でも、どういう好きなのかわからないんだよ…」

「そこは名前から聞いてこないとおれからは言わない、十分伝えてるつもりだし。」

「…意外に意地が悪い。」


そっか…と納得する名前。


「でも、好きな人が他の人と仲良くしてるのは、あまりいい気分じゃないよね。」

「…え?それって…」


どういうこと?
と未だ眉間にシワを寄せてよく分かっていない名前にとうとう出てしまったため息。


「…名前が好き。」

「…え、はい。」

「…だからおれの見えるところで仲良くしないで。」


「嬉しくないから」と名前に背を向けた研磨。


「…ヤキモチ。」

「…。」

「…ってことは…脈アリ?」

「脈のありかなしかの問題じゃないと思うけど…」


そう、ぶっきらぼうに返す研磨に抱きついた。


ありえないほど無
実は脈アリだった


-END-

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