Short Story | ナノ


▼ もし、あの時に勇気を出していたのなら

放課後、研磨は気だるげに体育館へ向かっていた。
ふと視線を移せば、そこにはマネージャーの姿。


名前…。


どうやら向かいには誰かがいるようだが、木に隠れていて全く見えない。
名前の表情から、どことなく自分にとっては嫌な感じが見て取れた。

名前、好きな人いたんだ。


気づかなかった…。


バレー部での彼女はよく見ていた。
しかし、そういう素振りは全く見せていなかった。

だから、どこかで安心していたのかもしれない。

彼女は、いなくならないって。

今、出ていけば…止められるかもしれない、けど…
たぶん、名前は、好きみたいだし…それは、できないかな。


視線をゆっくり足元へ落としつつ、ここで、出て行っても、出ていかなくても…

どっちだって、後悔する。
もっと、前からこの現実は辿り着くようになっていたんだ。


「それなら…もう、遅い。」


そう思い、彼女たちに気づかれないよう研磨は違う道で体育館へ向かった。


部活が始まり、名前が遅れてやってきた。
黒尾が「告白どーだったんだー?」と大きな声で問いかける。

その瞬間部員たちは「えぇ?!」と驚き、みんな名前の姿を見た。


研磨だけは、彼女に視線を向けなかった。


結果は、わかってるんだから。


「あー…なんか、違うなぁと思って。振っちゃいました。」


えへへ、と苦笑いをするマネージャーの声に、研磨は「え。」と視線を向ける。


「アイツ、サッカー部の主将だぞ?いいのか?」


黒尾が言う言葉に、夜久が「あぁ。あのイケメン。」と言う。
彼らが何と言おうと、名前には過去の話である。


「なかなか自意識過剰な人で…ふられたこと受け入れるまでにかなり時間かかりました…。」


研磨が去ったあと、名前にあった好きな人を見る目は、その後衰退していったのだろう。
そう思うと、研磨は後悔した。

…あの時、やっぱり、出ていけばよかったのかもしれない。


もし、あのに勇気を出していたなら
結果オーライだったからいいや


-END-

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