Short Story | ナノ


▼ 全部君に私を選んでほしいから

「おーい、名前ー。」


真夏の体育館で、シューズの擦る音とボールが床を跳ねる音が響き渡る。
中はいくら扉が開いていようとも部員たちの熱気と太陽の熱でムンムンだった。

汗を拭いながら主将の黒尾がマネージャーの名前に声をかける。
マネージャーもタオルで汗を拭ったところだった。


「アイス買ってきてくれ。」

「へ…アイスですか?」


なんて素晴らしいものを頼むんだ黒尾さん!とリエーフたち1年は目を輝かせた。
名前はまさかのおつかい物に目をぱちぱちさせる。


「研磨ご指名なんで。強制的にお前だ。」


黒尾が視線を向けた先には暑そうに体育館の大きな扇風機の前でひたすら風を浴びている金髪、プリン頭の姿。


「研磨が行くって言わないですよね…」

「あー、俺たち先輩でじゃんけんした結果だ。」


「1年に行かせたら変なもん買って帰ってきそうな奴らだからな。」とリエーフを見る。


「俺の事っすか?!」と立ち上がるリエーフを無視して、黒尾は「ということで、研磨ちゃんと連れて帰ってきてくれよな。」と迷子常習犯のセッターを任された名前は「はい。」と苦笑いした。


できる限り木の陰を歩きながら研磨と揃って近くのコンビニに来た名前。
外は猛暑日、36度なんて平然と言ってのけるテレビだが、体感温度は優に40度を超えるのだ。


コンビニというものは、とてもじゃないけどエアコンによってキンキンに冷やされており、外との温度差は10度以上ある。


汗をかいている二人にとってそこで長居するのは身に多大な影響を及ぼす恐れがあったため、のんびりしてはいられなかった。


「そういえば、研磨。なんで、私を選んだの?」


アイスを人数分選び終え、お会計をしている時、ふと思い出した名前が隣の研磨にそう問いかける。


「え…べつに…マネージャーだから?」


選んだ本人は特に意味なく自分を選んだようだ。
曖昧かつ首を傾げてさらには質問返しと来た。

これには何も言えない名前は「そっか。」とコンビニを出た。



「うあー…やっぱり、この温度差は非常に身に危険を感じる。」

「クーラー病になりそう。」

「間違いない。」


そんなくだらない話をしている間も、袋の中のアイスはものすごいスピードで溶けているのだろうな、なんて心配をしながら隣に彼がいるかを定期的に確認しながら微笑む名前。

研磨は「なに?」とその度に問いかけた。


「私じゃなくても、黒尾先輩といけばよかったんじゃないの?」


ふと、思った。
黒尾先輩が研磨の心配をするのなら、彼がいけばよかったのではないか、と。

しかし、研磨は眉間に皺を寄せて「暑いのに…クロ見たらもっと暑く感じそうじゃん。」と呟く。


「あ、名前は涼しそうだから、かも。」

「なにそれ…あまりうれしくないよ研磨くん。」

「嬉しくない…か。」


何か考えながらも、二人は体育館のエントランスについた。


「でも、冬だったら、あったかそうだからって理由でまた名前を選ぶと思うよ?」と普通に会話をしているように言う彼に、名前は立ち止った。


さきに扉を開いた研磨の姿を見た部員たちが一斉にアイス求めて出てくる。

すっかり溶けてしまっているだろうアイスを手に、名前は恋の味を知った気がした。


全部君にを選んでほしいから
恋が始まる数秒前…。


-END-

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