Short Story | ナノ


▼ 心から伝える「ありがとう」

音駒バレー部のマネージャー兼彼女の名前が彼氏の研磨にタオルとボトルを手渡す。


「ありがとう。」

「いいえー。」


名前にとっては、なんてことない言葉なのだろう。
しかし、研磨にとってはとても大切な言葉だった。

忙しそうにしている名前を見て「そんなこと、考えてる暇もなさそう…」と思いながら先ほど手渡されたボトルに口づけた。


「研磨の彼女は何しても完璧にこなすな。」


研磨の様子を見ていたらしい夜久がタオルで汗を拭きながら言う。
それに研磨は「うん。」と同意の返事をした。


「まぁうちとしちゃあ助かるな。」

「まぁな。」


夜久と黒尾が芝山と言葉を交わしている名前を見ながら言葉を交わす。


「彼氏は、どう思ってんだ?」


夜久の呼び方を聞いて研磨は眉間に皺を寄せた。


「やめて…その言い方。」

「なんでー。いーじゃん。」


コーチがホイッスルを鳴らし「集合!」と手を挙げた。
部員たちが手にしていたボトルやタオルをその場に置き、コーチの元へ駆け出す。

練習が再開されたにも関わらず、夜久と黒尾はマネージャーの話を続ける。


「しかし、研磨のどこに惚れたんだろうな。」


喋りながらでもキレのあるレシーブをする夜久。


「名前は“そんなの全部です!”って言いきってたぜ。」


黒尾も主将として申し分ないレシーブをする。


「…嫌だ。この人たち…。」何も言えない研磨は心の中でそう思っていた。

再び休憩に入った部員たちは、ゴクゴクとドリンクを先ほどより勢いよく飲んでゆく。


「やっぱりレシーブ練はキツイっす!」


床に寝転がり、荒くなった息を整えながらリエーフが叫ぶ。
「そんなんじゃ音駒のエースにはなれねぇぞ!」と山本が叫ぶ。


「アイツら元気有り余ってるんだな。」

「…うるさい。」


黒尾の陰でそう呟いた研磨は眉間に何度目かわからない皺を寄せる。
その皺に、誰かが触れた。

驚きの余り抑えられたところを手で隠した研磨は同時に見上げる。


「眉間に皺寄ってるよ。」


誰が見ても可愛い笑顔で優しくそう言った名前に呆気にとられる研磨。
研磨の様子を見た黒尾が「名前、すげぇ。」と呟く。

そのまま床に寝転がっているリエーフの元へ行き「リエーフ。」とリエーフを起こし、各々にタオルを配っていく。

配り終えた頃にはみんなシャキッとした雰囲気を持ち直していた。

最後に研磨にタオルを手渡した名前。

研磨が「名前。」と彼女を引き留める。


「どうかした?」


今の彼女には、恐らくマネージャーという責任感しか持っていない。
それをわかった上で、研磨が伝える。


「いつも、ありがとう。」


普通に、ありがとうでは彼女に伝わらないことを積み重ねてきて学んでいた研磨は、伝え方を変えてみた。

名前は、泣きそうな顔を一瞬したが、すぐ笑顔を見せた。


心からえる「ありがとう」
頑張ってる君をみんな知ってるから


-END-

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