▼ 友達以上のあなたと恋人未満のきみ
よく、友達以上恋人未満なんて言うけど…
それって、正直私と黒尾の関係のことを言うんだと思う。
「私たちのためにできた言葉みたいなものなんじゃないのかな。」
名前のノートの片隅に“俺たちは血液だ”と書いた黒尾が「そんな都合いいことがあるかー?」と真面目に返す。
「あぁっちょっと!何…“俺たちは血液だ”?」
「“滞りなく流れろ、酸素を回せ 脳が―…”」
「“正常に働くために”って?研磨が嫌がってたやつだから覚えてる。」
そんなことをいいながら、黒尾の書いた文字の下に“滞りなく…”と続きを書く名前にふっと笑った黒尾。
「お前さ、ずっと思ってたんだけど…」
「ん?」
動かしていたシャーペンを止め、視線を目の前の黒尾に向けると、いつになく真剣な顔をして名前を見ている。
名前は胸が一度大きく音を立てたのを感じた。
「バカだよな。」
「っ…黒尾…あんたにだけは言われたくない言葉ナンバーワンだわそれ。」
書いていた文字を消しゴムで消していく名前に、「あー、おいバカ!消すな!」と消しゴムを握る腕を捕まれる。
「バカ言うな!」
「お前、華奢だなー。」
「こんなに細かったか?」なんて失礼なことをいう黒尾に、名前は椅子から立ち上がり、彼の横に移動するとクルッと一回、回って見せた。
「…何してんだ。お前。」
本気で心配しているような顔をした黒尾に、キッと睨むと名前が制服のスカートの裾を持って下へ引っ張った。
「スカート!!女の子!!」
「あー…そういうこと。」
「とうとうバカが底辺に行ってしまったかと思ったぞ。」とケラケラ笑い出す黒尾。
「しばく。」
そう言って手を振り上げる素振りを見せた名前の腕をいとも簡単に掴んでしまう黒尾は、間違いなく男だった。
「悪かったって。」
これほど間近に黒尾を見たのは、いつぶりだろうか、と思った。
その距離僅か数センチ。
「名前。」
黒尾の口元が、ゆっくり動き彼女の名前を呼んだ。
それををジッと見つめていた彼女は、急に彼を男だと意識し始めた瞬間だった。
黒尾の腕はいつの間にか腰に回っていて、首根っこに添えられた大きな手が彼に引き付けていく。
唇が重なるまで、あと1センチ…。
彼の口角が上がった。
「…なんてな。」
「…ばかばかばか!」
友達以上の黒尾と
恋人未満の名前。
二人が恋人になるのは、もう少し先になりそうだ。
友達以上のあなたと恋人未満のきみ
お互いが惹かれているのは確かだ
-END-