Short Story | ナノ


▼ 何も要らないから会いたいよ

2年4組の教室で、ボーっとしているのは音駒高校バレー部マネージャーの苗字名前だ。

彼女は今、まさしく、早く会いたいと思っている想い人であり、彼氏である隣のクラスの孤爪研磨のことを考えていた。


「うー…会いたいよー。」

「誰に?」


ここは、確か2年の教室のはず。
辺りを見渡しても、やはり見慣れた落ち着く自分のクラスである。

それに似つかない人が目の前に立っている。

3年の夜久だった。


「え…夜久さん?幻…?」

「誰が幻だ。寝ぼけてんのか?」


「目ぇ覚ましてやろーか。」なんて言いながら名前の鼻を摘む彼に名前は確信した。
こんなことをするのは現実の夜久だけだと。


「うぅーっ離してくだしゃい…鼻が高くなりそうですけど…それより痛い!」

「んで、また研磨のことでも考えてたのか?」


痛い鼻を手で押さえながら目の前の夜久は一枚のプリントを机に置いてニヤニヤと返事を楽しみにしている。
研磨、という名前だけに名前は鼻が痛いことなんてもうどうでもよくなった。


「はい!会いたいなぁって。」


その頃、2年3組の教室では研磨と、夜久と同じくプリントを届けに来ていた山本がいた。
身震いをした研磨がぎゅっと自分の肩を握る。


「…なんか、悪寒がした。」

「風邪引いたんじゃねぇの?」


山本はそれに平然と返す。

一方、2年4組では夜久が「アイツのどこがそんなに言いわけ?」と問いかける。

「うーん…」と考えて出した答えは


「不意に、きゅんってさせるところですかね?」

「研磨が?」

「はい。」


プリントを見た名前。
一瞬でその表情がパアッと明るくなった。


「えっ合宿ですか?」

「おう。そうだ。」

「やったぁ!」

「おい、あくまでバレー部の強化合宿だ。主目的間違えんなよ、マネージャー。」


そう言うだけ言って去っていった夜久に「はい。」と笑顔を向けながらも、その裏では「研磨を長い時間見られる。」と嬉しい気持ちでいっぱいだった。


何もらないから会いたいよ
何してくれなくてもいい、ただ近くにいて。


-END-

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