▼ さよならする度に
「名前。かえんぞー。」
バレー部、主将の黒尾がマネージャーの彼女を呼ぶ。
先に着替えを終えていた名前は夜久と話し込んでいた。
黒尾に呼ばれ、「うん!」と笑顔を見せた彼女は夜久に手を振り黒尾の元へ駆け寄る。
「何話してたんだ?」
「黒尾鉄朗の話。」
へらっと笑う名前に平然とした顔で「へぇ〜」と受け流す黒尾だが、心の中では可愛いな、なんて思っているのだろう。
「やっくんが背だけは無駄にでかいって言ってた。」
「アイツ…覚えてろよ。」
クスクス笑う名前は「私も同意しておいた。」と付け加える。
「お前も同意するな。」
「でも鉄朗が背高くなかったら…好きじゃなかったかもしれない。」
真剣な顔をして言う名前を見て、背が高くてよかったと思った黒尾だったが…
「嘘だけど。」
「は?…許さん。」
いつも通りの会話。
毎日学校でも部活でも同じだが、ただ名前にはこの帰宅時間が一番つらい。
休みの日、たとえ一日会えなくてもあまり寂しくない。
しかし、会って、こうして楽しい時間を過ごして…その終わりが見えていることが彼女にとってとても苦痛だった。
名前は電車に乗らず、学校から徒歩圏内に家があるため、帰路の時間も短く、いつも別れ際に思うのは“せめて電車に乗って帰りたいな”だった。
そうすれば、黒尾といれる時間は格段に増えるのだから。
しかし、いつものようにすぐ家の前についてしまった。
黒尾はわかっている。
名前がいつも別れ際を寂しく感じていることを。
「んじゃ、また明日な。」
「うん。」
素直に頷く彼女の頭を雑に撫でると顔を覗き込む。
不意打ちだった。
「…え…。」
「いつにも増して可愛かったんで。」
なんて冗談めかして言う黒尾の腕を掴んだ。
それを見て「お?どうした。恋しくなっちゃったか?」と相変わらずふざけた口調で言うが、内心そうでもしていないと自分を制御できないのだろう、と名前は彼を見透かしていた。
「帰りたくない…。」
「…今日は一段と甘えるんだな。」
「どうした?」といつもと違う名前を抱きしめる。
「この時が、たまらなく嫌い。」
そう言って黒尾の背に腕を回す名前の頭をゆっくり撫でる黒尾が言う。
「俺も同じだ。」
そのたった一言で、彼女の心はスッと軽くなる。
「…好き。」
「俺も。」
さよならする度に寂しく思うのはそれだけ好きだから。
さよならする度に
離れたくないほど好きだ
-END-