勝利は誰のもの?
音駒高校の部室に、あるメンバーが集められた。
「…帰ってい?」と呟く面倒くさそうな研磨。
「なんでこのメンバー?」と不思議そうにしている夜久と
「まぁまぁ…」と研磨を宥める名前。
「何するんスか?!」と一人わくわくしているリエーフに…
「お前らを呼んだのにはわけがある。」と話し始めた黒尾。
4人の視線が黒尾に向けられ、ふっと笑えば彼らの前に突き出したそれ。
「トランプをしようと思ってな。」
「…めっちゃ普通だな。」
「特別このメンバーにする必要はあったの?」
「そこツッコむな。ただ捕まえやすかったからだ。」
研磨は今にもため息をつきそうな顔をした。
慣れた手つきでそのトランプをリフル・シャッフルして見せる黒尾。
それを見ていた名前はとリエーフは「おぉ〜」と感心するが、夜久と研磨は“またやってる…”という冷めた目で見ている。
「なんでそんなにトランプ似合うの?」
「カジノとか似合いそう、クロ。」
「中で悪いことしてそうだよなー。」
「人の心読めますもんね、黒尾さん。」
「お前ら黙って聞いてりゃ言いたい放題いいやがって…」
巧みなシャッフル裁きを見せた後、「何するか…」とメンバーを見渡す黒尾。
リエーフが挙手をする。
「おれババ抜きがいいです!ババ抜き!」
「お前も普通だな〜」
「いいんじゃない?」
「いいけど…コイツめっちゃ強いぞ?」
夜久が指をさすのは黒尾。
確かに黒尾に心理戦はなかなか手ごわいものがあった。
「じゃあ心理関係ないヤツ!」
「えぇっダメですよっババ抜きしましょーよー」
「いいじゃん。リエーフ反射神経あるんだから一休さんしよう?」
「じゃあそれで!」
「お前…なんでもいいんだろ?」
名前に簡単に促されるリエーフに呆れる夜久。
「じゃあ…それで。」と研磨も同意した。
黒尾は手にしていたトランプの背を向けた状態で円形にスライドさせていく。
「ルールはわかってるな?」
「わかってます!」
「お前、ほんとか?リエーフ超不安なんだけど…」
「一休さんって誰か知らないでしょ…?」
「はい!知りません!」
ほら、絶対やべぇぞコイツ。と夜久が黒尾に目で訴えるも、「まぁやってみよーぜ。」とトランプを囲むように座るメンバー。
じゃんけんをして勝った研磨から時計回りにスタートする。
研磨→夜久→リエーフ→黒尾→名前の順だ。
「ねぇ、なんでトランプするの?クロがしたいだけ?」
始める前に研磨が黒尾に問いかけた。
「そうだ。」
「「…。」」
この遊びに付き合わされる身にもなってほしいものだ、と思う研磨と夜久。
「はやく始めましょうよ!研磨さんっ」
「ただするだけ?」
「そうだよ。何かねぇの?」
研磨と夜久に聞かれ考える黒尾。
「勝ったら言うこと聞いてやる。その代り俺が買ったら俺の―…」
黒尾の話を最後まで聞かずに部員たちは口々に申し出る。
「じゃあ“部活休みにして”。」と研磨。
「俺は一日“レシーブ練”がいい。」
「えぇっ夜久さん俺それは絶対嫌です!!」
「じゃあお前が勝てばいい話だろ?」
「あ!そっか!じゃあ俺は“一日スパイク練”がいいです!」
「おい、それじゃあ俺と芝山は何をすんだよ。」
「?スパイク練です。」
「はぁ…?」
夜久とリエーフのお願い。
研磨のお願いを聞いた名前が「私も研磨と同じで!」と挙手した。
それらを聞いた黒尾が困った顔で「俺はキャプテンだけどそういうことはでき兼ねまずが。」と言う。
しかしメンバーは誰一人とそれを聞いてはいない。
「何のためのキャプテンだよ。」
「少なくともそういうことをするためのキャプテンじゃないです。」
夜久に冷ややかな目で見られる黒尾。
このまま言い合っても埒が明かないため、さっさと初めて自分が勝てばいいのだと思えば行動は早い。
「じゃあ研磨から。」
やっと始まった一休さん。
研磨が一枚手に取るなり中心に裏返して置く。
ぱっと手を出したのはリエーフ。
「はい、お手付きー」
「…お前本当に大丈夫か?」
早くも一枚目をお手付きで取得したリエーフ。
次は夜久の番だ。
“4”が置かれ誰も手をつかない。
そのままリエーフが一枚裏返す。
「7っ」
「「…。」」
サッと手を付いたリエーフ。
周りはこの時点で、結果をどこかで察していたかもしれない。
二枚を取得した本人は負けてるとわかっているのか、わかっていないのか目は爛々としていた。
そうして繰り返された結果…
「じゃあ、“部活休み”よろしく。」
「“1日レシーブ練”もな〜。」
「えぇえ…嫌です!レシーブばっかりーっ」
「やったー!休みだ!」
「おい、ちょっと待て…」
まさかの結果を考えていなかった。
初めの調子でリエーフがトランプのほとんどを取ってしまい、リエーフだけが負けとなった。
「…俺も勝ったんですけど?」
「あ?お前キャプテンだろ。部員の願いを叶えてこそキャプテンだ。」
「…夜久、お前ね…」
「じゃ。」と部室を一番に後にする研磨に続き、夜久が「頼んだぞ〜」と手を挙げて帰っていく。
「…本当にレシーブ練するんスか?」
「…お前はまず一休さんのルールからだ。」
名前は苦笑いをした。
-END-