Collaboration project!【更新中】 | ナノ

自分のもので手に入れて


「へっくしょんっ」


誰かのくしゃみが体育館に響き渡る。
身震いをして腕を擦りながら体育館の端を歩くマネージャーの姿を捉える部員たち。


「…おい、風邪か?」


黒尾がボールを持ったまま傍まで来た彼女に問いかける。
鼻を啜りながら「いいえっ元気です!」と答えた名前に何とも言えない顔をした。


「いや、元気なのは結構なんだけど…お前上は?」
「上?」


黒尾に言われた通り上を見る名前に吹き出す夜久。


「相変わらずバカかよ。」
「ムッ…じゃあどういう意味ですか?」
「上着はどうしたんだって聞いてんの。」


そう言って練習を再開した夜久。
あぁ、と黒尾を見て「忘れました。」と平然と言ってのける彼女にため息をつくと黒尾は「ホントにバカだな。」とだけ言った。


「何ですか先輩たちっ」
「研磨どこ行った?」
「え?研磨?あそこに…あれ、いない。」


コートにいるはずの姿がいなくなっていることに気付きポカーンとする名前。
山本が「あっちあっち。」と指をさす。
端の方でドリンクを飲んでいる研磨がそこにはいる。


「あっいた!」
「アイツ、ジャージ持ってるから借りろ。」
「えぇっ」
「なに…?」
「いや…研磨のジャージなんて着れない…」
「…。」


視線を落として恥ずかしいのか小さな声でそう言った名前を冷めた目で見る黒尾。


「いいんです!大丈夫ですから!」
「…あっそう?」


ならいいです。と黒尾の良心虚しく名前は結局そのまま仕事へ戻った。


開け放たれたドアから秋風が吹きこむ。
昼はまだ暑いが、夕方あたりからぐっと気温が下がるため風が冷たい。


名前の背を見つめていた研磨がそっと歩み寄って行く。
壁際に置いていた自分のジャージを彼女の肩にそっとかけた。


「名前がいないとみんな困る。」


驚いて声の主を見上げれば研磨が「マネージャーでしょ?」と言って表情を柔らかくした。
「…うん。」と頷いた名前を見てからすぐコートへ戻っていった研磨。

肩にかけられたジャージを握って「優しいなぁ研磨…。」と呟いた後それに腕を通した。



休憩をしていた黒尾が体育館の端から全体を見渡す。
「あれ…名前ジャージ着てるじゃねぇか。」と言えばその声を聞いた研磨が「寒そうだったから。」と答える。
それにはニヤニヤする黒尾。


「へぇ〜」
「なに。」
「お前よく見てんな。」
「クロもね。」
「えっ…」


ドキリとする黒尾。
「クロも気づいてたんでしょ?寒そうだったの。」と言えば、名前を見る。
その時名前はとてもご機嫌な様子を見せていた。


「名前さん、どうしたんスか?」
「ううん。何もないよ?」


リエーフは首を傾げる。

二人が何かを話す様子を見ていた黒尾が「おい、また喋ってんぞアイツ。」とにやにやする。
いつもならモヤッとする研磨の顔だが、きょうは平然として「…そうだね。」とだけ言う。

詰まらない黒尾は「いつも妬くくせに…きょうはどうした?」と企んだ笑みを向けていれば、研磨が口をゆっくり開いた。


「…ジャージ着せてるから、名前はおれのもの。」
「…。」


って感じがするから?と自分で首を傾げる。
黒尾は目を見開いた。


「なんか、安心する。」


それだけ言って犬岡と山本が練習するところへ歩いて行った研磨の背を見つめながら、黒尾はふっと笑った。


「毎回アイツの言動には驚かされるわ…」


-END-