Collaboration project!【更新中】 | ナノ

人肌恋しくなる


朝、いつもより早い時間に目が覚めた名前は眉間に皺を寄せた。
ズキズキと痛む頭に違和感を覚え身をゆっくり起こせば、体が重く喉が痛いことに気付いた。

…まさか、風邪?

喉元に手を添えながら、重い体を動かし体温計を手に取った。






登校時間中の白鳥沢では、男子バレー部が朝練を終え、着替えを終えた者から順に部室を後にしていた。その中に、天童の姿ももちろんあったがネクタイを結ばず手で持ったまま教室へ向かう。


「てーんーどーう…」
「ゲッ」


教室の前ですれ違った先生に早速見つかり、「またかっお前は!ネクタイを結べっ」と怒られている背を、同じく朝練を終えた花がふっと笑いながら教室へ入っていく。


「なんで朝から怒られるようなことするのよ…」
「朝から怒られる俺って天才ダヨネ〜?」
「さすがにその冗談にはムリがあるわ。」


花が席につくなり天童に呆れた表情を向ける。
「テンション下がった。」と自業自得なことを言った後、彼はハッとし教室の端へ目を向けたが、「アレ?」とすぐ花を見た。


「花ちゃん。名前ちゃんは?」
「は?あんた聞いてないの?」
「何をっ?!」
「体調崩したんだって。熱あるらしいよ。」


聞いた天童は机に項垂れた。
「せっかく名前ちゃん見てテンション上げようと思ったのに…さらに下がったからもう何もしねぇ…。」と目を瞑る。
花はそんな天童を見て「ねぇ…」と声をかけた。




不思議だ、熱があることを数字で示されたものを見れば、さらに体が怠くなってくる。
名前は家にあった解熱剤を飲みベッドで横になっていた。
時計が視界に入り、時刻を見て目を瞑る。


お昼休みの時間か…花はバレー部の子と一緒に食べるから大丈夫だって言ってたけど…変に心配してなきゃいいな。


花の事ばかり考えている名前だったが、やはり彼氏のことも気になるもので…


…天童にも、連絡した方がよかったのかな…。
毎日会ってるから、会えないと思うと、会いたくなる。
でも部活あるもんね…早く治してあした学校行けばいい。




名前のいない授業をすべて終えた天童は放課後の部活に出ていた。
いつにも増して、上機嫌な彼を見た周りは思う。

“絶対彼女となんかあったな。”

しかしそれは違う。


「…あれだけ機嫌良いくせに、何も話してこないのはなんでだ?」


不思議なことに気付いたのは瀬見だ。さすが、いつも話を聞いているだけのことはある。


「彼女の家に行くらしいよ。」
「あー…なるほど。時間外外出するから言わねぇのか。」


大平の話を聞いて納得した。
寮には門限というものがもちろんある。部活が終われば門限を過ぎてしまうため、そっと外出をしてそっと帰ってくるのだとか。


「外泊じゃねぇんだな?」
「体調崩してるらしい。」
「…さすがにそれはムリだな。」


苦笑いをする瀬見が見た先には天童の姿。
牛島に他愛のない話をしている。


「何か意外だよな。前の彼女んときなんてまともな話聞いたことなかったのに…」
「苗字にベタ惚れだからな。」
「…まぁ、わからなくはない。」
「…そうだな。」
「むしろ“なんで、天童?”って思う…。」
「それは覚に失礼だな。」


天童の彼女は部員も認めるいい女なのだ。
そんな話をしていることも知らず彼氏はバレーに関係のない話を牛島にペラペラと話していた。




すっかり外は暗くなり、時刻は夜の8時前。
名前は物音で目が覚めた。


「あ、起きた。おはよう名前ちゃん。」
「……。」


ボーっとする頭で、目の前の状況を考える名前。
じーっと目の前にいるはずのない人物を見ていれば、本人は「そんなに見つめられると俺困る。」なんてふざけた口調で言う。


間違いない、天童だ。


「聞きたいこといっぱいあるでしょ。俺が全部話してあげるね。まず花ちゃんに名前ちゃん家に行って様子見てきてって言われて、部活終わってからすぐここに来た。インターホン鳴らしたら名前ちゃんのお母さんが出てきて、ちょっと喋ったら上げてくれた。」
「…お母さん…」


簡単に入れてくれてるけど…彼氏じゃなかったらどうする気なんだろう…
特に天童ならいかにも彼氏じゃないのに“名前ちゃんのカレシです!”なんて言いそうだ。

…実際彼氏だからよかったけど。
お母さんには気を付けてもらわないと…。


目を瞑る名前は何を天童に言おうかと考えていたところ、天童が「名前ちゃんのお母さん今から仕事だって言ってたけど、一人で大丈夫?」と心配そうに問いかけた。


「大丈夫。よくあるし…」
「でもすごい熱あんじゃん?死なないでね。」
「本当に心配してる?」
「心配はしてる。」


ふふっと笑う名前。
間違いなく彼と話していると実感するその会話に安心した。


「…ありがとう。来てくれて。」
「名前ちゃんいつ来るかわかんないじゃん?だから充電しに来た。」
「え。」
「かといってさすがの俺でもツラそうな名前ちゃんに手は出せないから顔だけ見せて。」
「…え…それはヤダ。」
「なんで?!」


顔を背ける名前の視界に追うように入ってくる天童。
布団を額まで被る彼女は「恥ずかしい。」と言う。

天童はその布団に手をかけた。
ベッドが軋む音がし、驚いた名前。
もう遅かった、目の前には天童、しかも腕を掴まれて身動きが取れない。


「…移ったら大変…」
「移ったら名前ちゃんが俺に会いに来てネッ」
「そういう問題じゃないっ」


うるさい、とでも言うように口を塞がれる。
彼に触れられてしまうと、考えていたことがどうでもよくなる。
目の前の事しか考えられない。


朝から誰もいなかった家で、一人でベッドの中にいて…
目を覚ませば会いたい人がいて…


「名前ちゃんは、俺に会いたかった?」


身体が弱ると、人に触れたくなる。
もっと優しくしてほしい。


「…うん。ぎゅってして?」


自分の背に手を添えた彼女に、ドキッとする。


…アレ…ちょっとヤバいんじゃないのこれ。


「チューはもうしないからね。」
「え…なんで?」
「え…?」


なんでって言われても、さっきダメって言ったの名前ちゃんでしょ?したけど。

とりあえず天童は目の前の彼女のお願いに答え、抱きしめる。
「天童…」と抱き締める力を強くした名前に触れて、思う。


なんでこんなに可愛いんだろう…。
ずるくね?ずるいよね?


静かな部屋に、カチッと何かが音を立てた。
チラッと音を立てた方を見れば、掛け時計がある。

時刻を見て目を見開く天童。


「あっ俺帰らなきゃやばいっ」
「あ、ほんとだ。ゴメンね。」


パッと腕を離す名前の髪を撫でる天童。
名前は意外な行動に驚いた。


「早く学校来て。名前ちゃんいないと俺元気でないから!」
「…う、ん。わかった。」


じゃ、とすぐさま部屋を出て行った天童。
バタンと音を立てて閉まったドアを見たまま、頭に触れる名前。


「…彼氏っぽい。」


そしていくらか熱が上がった身を横にした。



翌日、天童が教室へ登校してみればやはり彼女の姿はないもののどこか浮かれている自分がいることに自然と声も弾む。


「おっはよ〜花ちゃん!」
「あんた昨日何しに行ったのよ。」
「え?」
「名前の熱が下がらないとはどういうこと?」
「アレ…もしかしてアガちゃったとか…?」
「あんたに頼んだ私がバカだった。」
「えぇっ…それはヒドイッ」
「あんたがひどいわ!」


朝から花に怒られる天童は一気にテンションが下がった。


「名前ちゃん、早く元気になって〜」


-END-