Secret Boy's Talk
刻は放課後。音駒高校、男子バレー部の部室で怪しい3つの人影が存在した。
おかしいな、きょうは確か久しぶりのオフ日のはず…なのに、なんでここにいるんだろう?しかも見慣れ過ぎた面々と…と、顔を上げたのは…夜久だ。
その視線に気づいた黒尾が「どしたのやっくん」と問いかける。
「いや…なんでここにいるんだろうと思って」
「俺が?」
「俺自身」
あぁ、と言った黒尾に代わり、隣の黙っていた奴が視界に入ってくる。
「やっくんが名前に手出せなくて欲求不満だって言うから」
「言ってねぇ」
「じゃあ違うとでも?」
「…」
結葵のニヤリとした顔に堪らなくなる。
現時点で欲求不満ではないと言えば嘘になるし、結葵は妹の事になると鋭い…欲求不満にならない程度のことをしているとわかればそれなりに想像して発狂するに違いない、それだけは御免だと考えた夜久はだんまりを決め込んだ。
「はやく彼女つくれよ」
「つくろうと思えばつくれるのだよ、夜久くん」
「うぜぇ」
「彼女はつくるものじゃありません」
夜久の小さな言葉に反応する結葵にはため息が出た。
そっと視線が手元に落とされた。
そこに存在するヤツはやたらと主張をしているように思えた。
「何?お前コスプレイヤーがいいのか」と黒尾。
「コスプレイヤー言うな、この職業のお人がいるんだぞ」
「もうスカートの時代じゃねぇしなー」
「え、そうなの?」
今度は夜久が「妥当だな」と低い声で物申す。
「妥当が一番安全だろ!」
「なんの…?」
「そ、そうやってお前らは俺を赤裸々にしようとしている」
「ガードが堅いな…それはさておき、お前よく妹にバレずに持ってんなこれ」
男の教科書(エロ本)というヤツを持ってきたのは結葵と黒尾のみ。
様々な制服を着た綺麗ななんとかモデルが、うん…なんか、やばい恰好してる。
「サッカー部の部室に隠してるから高確率でバレない」
「黒尾も同じだな」
結葵と同じく黒尾も部室に隠している。
「部室で見たところで…」
「家にもあんの?」
「本棚に混じれてる」
「強いなそれ」
「背表紙を奥にして直すとバレねぇ」
「夜久、黒尾ん家行った時、一緒に探そうぜ」
「やめろ」
「あっそいやこの前、新しく買ったヤツが母親にバレてさ…」
「えっマジかよ」
「エロ本なんて百年早いって言われた」
結葵と黒尾の会話を片耳にしていたら、背の方から物音がした。ちらっとそちらを見た夜久が口を僅かに開けた。
「118歳になるまでは早いってことだな」
「枯れる」
「…おい」
「ん?」
夜久にくいくいとシャツを引っ張られ、結葵が顔を上げる。
彼の視線の先を辿った結葵は、捉えたその姿に目を見開いた。
「……」
「…名前」
無言で、それはそれはもう恐怖しか感じないような視線だった。ゴミを見るような目で、彼らを見る可憐な女の子が立っていた。
あたふたする結葵だが、夜久は何も隠そうとしなかった。彼は、無実なのだが…
「エロ本って、なんですか」
黙り込み、肯定も否定も正か不正かも言わない。それは、全て真実ですと受け取れと言われているかのようなものだ。
名前は何も言わずその場を後にする。
「…サイアクだ」
「…なんで夜久否定しないんだよ。お前しかできる奴いねぇんだぞ?」
「いっしょに居るところ見られて、否定したところで……同罪じゃね?」
「…友」
「しかしまぁ…どうするよ」
黒尾の問いかけに、夜久も結葵も項垂れた。
「「んー…そうだなぁ…」」
続編に続く