甘えるだけじゃなく
「あ、苗字」
「えっどこ?!」
あそこと指さす瀬見。
朝練を終えたバレー部の集団がぞろぞろと教室へ向かっている前方に白のブレザーを着た彼女の姿があった。
その姿を捉えた天童が前方まで駆けていく。
天童の背を見送りながら瀬見は柔らかく微笑んでいた。
「朝のアレを聞いたら、優しく見守ってやりたくなるな」
大平の声に瀬見は「ん」とだけ答えた。
「名前ちゃんっ」
ギュッと背後から抱きしめれば、すっぽり天童の腕に包まれてしまう名前。
生徒が登校中だという廊下での抱擁に名前は少し戸惑う。
「天童…ここ廊下…」
いつもなら花に“離れろ”と言われる天童だが、今日は花がいない。
「フフン♪」
「?」
いつも上機嫌だが、さらに機嫌の良い彼を見て、不思議に思う名前。
「何か良いことあった?」
「んー?」
理由を話そうとせず教室に向かって歩いていく天童に、「言えないような、嬉しいこと?」と首を傾げる名前を見て天童は言う。
「もー隠してワッと驚かせようと思ってたのにさ〜ダメじゃん」
しゅんとする彼女に黙っておけるわけなく…
「部活なくなったの」
それを聞いてホッとするなり名前は「そうなんだ」とだけ返事する。
「エッそれだけ?!」
「? それだけ」
いつも通りの彼女に天童は、相変わらずだなぁとなんとも言えない表情をする。
「名前ちゃんさ〜俺とデートしようと思わない?」
「デートしてくれるの?」
「チガーウ。デートするんだよ」
名前はいつも部活で少しは休んで欲しい気持ちが強かった。
「でも、学校で会えてるし別にー…」
「ねぇっホントに俺の事好き?」
ズイッと顔を寄せて来た天童の目は、据わっていて、とても怖い。
「うん…」
「じゃあデートしたいよね」
「そりゃ…」
「ハイッ決定!きょうの放課後はデートだよっ」
ルンルンと教室に入ってった天童。
名前は天童の背をついて行き、彼に伝える。
「あのね、天童…せっかくの休みだし、私としては休んで欲しいわけで…」
「んーダヨネ。俺名前ちゃんのそーゆーとこ良いと思う。でも、俺は名前ちゃんとデートしなきゃ部活頑張れない」
何を言っても無駄な感じがした名前は諦めて自席に戻る。
天童は一人ルンルンしていた。そう、彼には、したいことがあるのだ。
朝練の後、制服に着替える部員たち。
いつものごとく天童の言葉に聴覚を奪われる。
彼らに届いたものは関心するものだった。
「チョー珍しい休みじゃん?だから俺さ〜きょうは名前ちゃんをバカみたいに甘やかすって決めたの!」
「へぇ〜良いじゃん。それ」
「ん?今日はまともだねぇ英太くん」
「俺は常にまともだ」
-END-