やっぱり、シスコンだな!コイツ。
-夜久side-
「お前名前のどこが好きなの?」
俺が目の前のコイツをシスコンだと思う瞬間は、不意にやって来る。
でも、今日はそれがあまりない日だから、特別俺が引き出すことにした。
名前の話をすれば苗字はとても嬉しそうな顔をする。
「えー、そりゃ全部だろ。」
「いや、全部なのはわかるけど…その中でも特にここは好きってところがあるんだろ?」
黒尾が「おい、やめとけよ。名前愛の海に溺れるぞ」と俺に忠告してくれたけど、もう遅かった。
すでに、不敵に笑うソイツは残念なシスコン兄へ成り下がっていた。
「まず、名前が俺を呼ぶ呼び方が好きだ。特に“ねぇ、結兄。”って“ねぇ”が超可愛い!!この呼び方がすげぇ好き!」
「…強烈だな」
もう、いいかな。
シスコンだと思わせるには十分な発言だったと思う。
「え?なんか言ったか?」
「いや? 他は?」
…実を言えばもう聞きたくねぇんだけどさ。
黒尾の言う通りもうシスコン海(※名前愛の海です)に溺れ始めてる気がする。
まだ1つ目なんだけど、この強烈さ相変わらず恐ろしい奴だな。
「他か〜…あ、名前の使用済み―…」
「苗字」
「ん?」
自慢気に話し始めたところを、聞いていた黒尾が遮るように言う。
「お前、“変態”の壁だけは越えるなよ?」
「……」
…え?なに?この空気。
目の前の苗字は開いた口をそっと閉じた。
俺たちの間に異様な空気が流れるのを感じ、まさか、と思ったが、それだけはどこかでやめて欲しい気持ちが勝っていた。
話逸らすか、そう俺が思った瞬間、目の前の奴が僅かに身を動かしたのがわかった。
「変態ってそもそも、どっから変態って言うんだよ?」
げらげら笑いだす黒尾とバカな苗字に、俺は救われた気分だった。
どうやら苗字は沈黙の間に変態のラインを考えて、結論わからなかったようだ。
「夜久、聞かねぇ方が良いシスコンもあるぞ」
「…気になるけど知りたくない気もするな」
なんだろう、この複雑な心情…ともやもやした感情を抱える。
「俺たちの知ってる苗字結葵という奴は、鈍感なシスコン野郎なはずだ」
「鈍感は許す、シスコンは許さん」
本当、シスコン野郎のくせにシスコンだけは認めないな…
呆れて溜め息が出る。
「じゃあその妹への愛は?」
「わかってんじゃん黒尾。お前今言っただろ?愛だよ。愛そのもの」
黒尾の視線が俺へ向けられた。
その目が訴える、“もう限界なんですが”と。
「沈められる」
「本望じゃね?」
「やめろ」
笑う俺に苗字が言う。
「そういう夜久だって名前の彼氏だろー?俺が妹好きなこと分かってくれるはずじゃん…」
「いや、たぶん…おそらくだけど…お前の名前への好きと夜久の名前への好きは違うと思うぞ」
「違ってくれなきゃ困るけど…」
「俺は苗字の好きを感じることはできねぇけど…」
「え?まだ俺の名前への愛がわからねぇって?」
黒尾、余計な事言ったぞ、絶対。
何かスイッチ入れただろ。
「じゃあさっき言おうとした名前の使用―…」
「その話の続きだけはやめろ」
「友情が保てるか怪しくなってくるから、な?」
「え?どーゆーこと?」
「お前が名前を大好き(シスコン)だってことはよーくわかってる」
「そう。その話はお前の中で大事にしとけ」
鈍感なシスコン兄のままでいいから、
変態にだけは成り下がらないでくれと願うばかりである。
-END-