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Secret of hearts


ある日の休み時間、3年5組の教室からジッと一点を見つめる黒尾。
サッカーボールを持って教室に入って来た結葵がそんな彼を見てにやりと不適に笑った。


「なぁになぁに?誰見てんだよー」
「サッカーしに行ったんじゃなかったのか」


黒尾の視線の先にいたのは友達と話す妹の姿だった。
ボールを脇に抱えながら黒尾の背にある机に腰かける結葵。
妹の楽しそうに話す姿を見て頬が緩む。


「そんな好きなくせに、なんで夜久に譲るかね」
「…いーんだよ、そのうち奪いに行くんで」


今の自分じゃ名前とずっと付き合っていけない…か。
黒尾もいろいろ考えて出した結論なんだろうけど…


「俺なら意地でも手に入れるけどなぁ…しかも好きなコに告白されたのに振るって相当だろ。」


サッカーボールをくるくる回しながら黒尾の様子を背後から伺う結葵。
黒尾は名前を見ながら「他のヤツを好きで、付き合ってから気づいて、じゃあ別れる?ってそんな先が俺には見えてたんだよ」と言った。


「夜久が名前のこと好きなのは知ってたし、名前が夜久を好きなことも知ってた。知ってて付き合うってのは、おかしいだろ?」
「黒尾は良い人すぎんじゃね?」
「そんなこと言ってお前、いざ妹が俺と付き合うって言ったら“あんな奴やめろっなんで黒尾なんだ”とか言うんだろ」
「言うね」
「即答かよ」


笑う黒尾の背を見ながら、結葵は教室の扉を見た。


「夜久は俺から見てもイケメンだけどさ、黒尾だって夜久に負けないくらいイケメンじゃん」
「あんな奴(夜久)が側にいてみろ?どれだけちっせぇ男に見えるか」
「まぁなぁ…」


教室の扉付近で他のクラスメイトと話す夜久の姿を眺める。


「嘘偽りない自分を持ってるよなぁ」


黒尾が振り返り、結葵を見るなり「俺はお前の方が羨ましいけどな」と不敵に笑う。


「俺は自由に生きてるだけだ」
「自由に生きれる人なんてお前くらいだろ」
「褒めてる?貶してる?」


結葵の視線の先に気づいた黒尾がそちらを見て目を細めた。


「俺は、黒尾の人一人を見れるその観察力と思考が特別カッコいいと思うよ?」


机から腰を下ろし、サッカーボールを足元へ転がすと、それを左足で止めた結葵。


「優しさと、判断力と、考え方と、行動力…お前は全部持ってる」


黒尾は夜久から視線を背けると再び窓の外を見た。
相変わらず、友人と楽しそうに話している名前の姿がそこにはある。


「俺はアホだからできねぇけど…現にお前をうまくフォローもしてやれない。助けもできねぇ…夜久も黒尾も大事なヤツだし、どっちかの味方につくとか俺は嫌だ…でも、お前だって同情されたくないだろ?」


黒尾は名前を見ながら、柔らかく口角を上げると「そうだな」と返事をした。


「だから俺は、もうこの話はしないきょうで終わりだ」


教室の床にあるサッカーボールを手に取り抱え込むと、黒尾にニッと笑みを向けた結葵。
黒尾と結葵の姿に気づいた名前が遠慮がちに笑った。


「名前が気づいたぞ」
「え?!マジで?!」


ボールを机の上に置き、窓に張り付く結葵。


「名前ー!!」
「げっ」
「げってなんだ!!」


窓から叫ぶ結葵に呆れ気味に笑う黒尾。


「よく見てんのはお前もだよ」


-END-