教えて!助けて!夜久先生!!
“次の授業の範囲までがテスト範囲だ”という先生の言葉に教室内の空気が重くなるのを感じた。
「ハァ?」と思う…特に勉強が苦手な俺からすれば特にだ!
「ちょっと待って先生!おかしいだろ。」
「何がだ。」
「もう次の授業でテスト前の授業最後じゃん。なのに次新しいこと習ってそれもテストに出すって無理だろ!」
「できるできる〜大丈夫だ。苗字、お前ならできると先生は信じてる。」
ニコッと笑顔を向けて教室を去っていく先生にイラッとした結葵がドカッと椅子に腰を下ろす。
「ムカつく。おかしい。」と教科書をペラペラと捲る結葵。
「今から先に勉強しとけば大丈夫だろ。」
「黒尾くん。そんな簡単に言わないでください。僕にそんな能力ありません。」
「隣にいい講師がいるじゃねぇか。」
「え?」
「ん?」
黒尾の話を聞いた夜久が黒尾を見て、結葵は夜久を見た。
結葵の表情が一気に明るくなる。一方、夜久は暗くなった。
「やっくんーヘルプミーッ!!」
「黒尾…お前…」
「俺も手伝うって。」
「…まぁ、それならいいけど…」
「やったー!これで赤点回避決定だなっ」
「いや、それはお前の脳にかかっている。」
しかしバレー部も練習があり、結葵のサッカー部も試合前で練習が入っている。
黒尾が「じゃあ…」と終わった後バレー部の部室で勉強することを提案した。
「…あれ?結兄?」
「おぉっ俺の妹!」
「はいはい。シスコン早く入れ。」
部室の前を通って、自分も着替えに行こうとしていた名前と結葵がばったり出くわした。
大好きな妹の姿を見つけた結葵だったが部室から夜久が彼を引っ張り込んだ。
結葵の入った部室がしん…と静まり返る。
見たことない人が、部室に入って来た。という表情をする1年生たち。
「そんな知らない人みてぇに思う必要ねーぞ。名前の兄貴だから。」
「どうもー。」
黒尾の紹介を聞いたリエーフが真っ先に「名前さんのお兄さんいたんすね。」と声を上げる。
「いいなぁお前ら。名前がマネージャーだなんて。」
「コイツ超がつくほどのシスコンだから。名前のこと話すときは気を付けろよ。」
黒尾の忠告に1年生たちは黙り込んだ。
部員たちが帰り、静かな部室に残った3人。
夜久と結葵が勉強しているにも関わらず、少し離れたところでその様子をただ見物している奴がいた。
「黒尾…お前手伝ってくれんじゃねぇの。」
「苗字教えてたら“何でできねぇんだよ”って思うから無理。」
「…はぁ。」
結局俺一人で教えるのか、と夜久はため息をつく。
目の前の結葵は制服を着崩して如何にもな恰好をしている。
見て呆れる。
「黒尾って何だかんだできるよな。」
「そう俺なんでもできる子なんです。」
「「腹立つ。」」
「え、何で。」
黒尾を放っておき二人でテスト範囲のところを徹底的にこなしていく。
「おぉっヤバいっ俺一人でできるぞ!」
「できなきゃテストできねぇだろ。一人ですんだぞ。」
「あ、そっか。」
黒尾が笑い、大丈夫かコイツと据わった目を向ける夜久。
結葵は頭を掻いてヘラッと笑った。
いよいよテスト目前の、最後の授業の日。
教室に入って来た先生が教卓に教科書を置く。
「そうそう、テスト範囲だが、前回の授業までにした。だから今日は自習時間にする。」
「「…。」」
マジかよ、と夜久が隣に座る結葵を見る。
当の本人の周りには負のオーラが漂っていた。
のらりと立ち上がり先生を見た結葵の顔はそれはもう恐ろしかった。
「先生、ふざけないでくれよ?マジで…」
クラスメイトが結葵に注目する。
「俺のサッカーする時間返せやー!!」
「苗字…哀れ。」
-END-