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可愛いは一切禁止。


ある日、朝練に来た黒尾が体育館へ入るとすでに来ていた研磨の様子がおかしいことに気付く。


「どうした。研磨。」
「どうしたって?」
「いや…様子が変だぞ…?」


チラッと黒尾を見上げた研磨だったがすぐ視線を落としてしまった。


「名前と喧嘩した。」
「え…お前ら喧嘩すんの。」
「…。」


何とも言えない視線を黒尾に向けて少しムスッとしているように伺えたその表情に黒尾は「へぇ〜」と感心する。


「お前が表情豊かにするのはいつも名前のことだな。」
「…そうかな。」


黒尾を怪訝そうに見てからふと視線をその奥へ移した研磨が「俺ボール取ってくる。」とだけ言って黒尾とは逆へ歩いて行く。
黒尾はその背を見て違和感を覚えた。その違和感の訳はすぐわかる。


「…あ、おい名前。」


黒尾の真横を黙ったまま通り過ぎようとした彼女に声をかける。


なるほど、研磨は名前がいたから逃げたのか。


「…はい。」
「…お前、すげぇ元気ねぇな。」


名前のいつもの明るさが0になった状態を始めてみた黒尾は少し戸惑った。
常に明るさと元気さを兼ね備えた彼女がいるからこそ部員も頑張っているところがあるというのに彼女の今日の元気の無さときたら困ったものであった。


「すみません…すぐ笑いますから。」
「いや、無理して笑われても困るんだけど…」
「うぅ…黒尾先輩…私はどうしたら。」


ぎゅっと自分のシャツを握りしめ、俯いた彼女にギョッとする黒尾。
まさか、泣いてる?と慌てそうになった直前、彼女が顔を上げた。


「“可愛い”が禁止にされてしまいました。」
「……え?なんて?」


思いもよらぬ言葉に黒尾は拍子抜けした。

事の発端は昨夜、一緒に帰宅をしていた時のことだった。
仲良く帰っていた二人だが、いつもの名前のコトバ“可愛い”と研磨に言ったらしいが、研磨は前からあまり嬉しくないと思っていた。


「研磨がその時に“可愛いは今後一切禁止。”って…」
「うーん…まぁ男としてはあまり嬉しくはない、かもしれねぇな。」
「でも、私には“つい”というものがあって…」
「あー。つい言ってしまうことあるよな。」
「そうなんですよ!」


もう名前の中で“研磨=可愛い”は当たり前のようにある定義のようなものなのだろう。
しかし、研磨はそれを消したいと察することができる。


「…しょうもねぇな。喧嘩の発端が。」
「夜久先輩…」


話を聞いていたらしい夜久が名前にそう言えば、哀れな目で彼女を見つめる。
名前は「先輩にとってはしょうもないかもしれないですけど私にとっては結構つらいんです。」と夜久に言い張る。
見えない光線が黒尾には見えた。


「お前らの方がしょうもない喧嘩すんな。」


その一言があまりにごもっとも過ぎて二人は黙り込んだ。


「研磨はさ、嫌なこと“嫌だ”って強引にまでは言えねぇから…名前が聞き出してやって。」
「…。」


今までの研磨の態度の数々を思い返してみる名前。
確かに、感情露わにしてまで拒否されたことはないかも…と考え直す。


「研磨ーっ」


即座に研磨の元へ駆け寄っていった名前を見て、ふっと小さく笑う黒尾。


「まだまだ手がかかるな。」


研磨の気持ちを聞いた名前の表情は、その後あまり変わらなかった。


「…黒尾先輩、やっぱり“可愛いは禁止”だそうです。」
「それは仕方ねぇんじゃねぇの?」


しかし、部活にはいつも通りの明るい空気があった。


-END-