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シスコンになったワケ


「お前っていつからシスコンだったんだ?」


ある日のお昼休み、黒尾が何を思ったのか突然後ろの席に座る結葵に聞いた。
しかし、本人はキョトンとした表情を黒尾へ向けて固まる。
夜久もその様子を傍から見ていた。


「いつからって、いつからでもねぇし。」
「は?」
「だって俺シスコンじゃねぇもん。」
「……。」


忘れてはいけない。
結葵はシスコンと周りからは言われているが、自分からは一切言ったことはない。
それには訳がある。

彼は自分を“シスコン”だと思っていないのだ。

そう言われては仕方がないので黒尾も聞き方を変える。


「じゃあいつから名前のこと好きなんだよ?」


変えた聞き方にも問題がある。
その聞き方は“好きな人”か“彼女”に対する聞き方だろうと。

しかし結葵は平然と即答した。


「生まれた時から。」
「…さぞお前からの名前への誕生日プレゼントは派手なんだろうな。」
「そりゃそうだろ。毎年ホールケーキ買ってやるんだぁ。」
「へぇ〜盛大だなぁ。」
「だろー?」


ツッコみどころ満載な彼らの会話に取り敢えず夜久は「話がズレてるから。」とだけ注意をする。


「え?何の話してたっけ?」
「名前のこと、生まれた時から好きだって話。」
「あー、そうそう。物心着いたときから好きだから…これといったエピソードとかねぇよ。」


別にエピソードくれって言ってるわけじゃねぇんだけど…と黒尾が言う。


「生まれて来た瞬間から超絶可愛い子だと思ってたから。」


真顔で言う結葵に夜久が頬杖をつきながら問いかけた。


「生まれて来た瞬間って…お前いくつよ。」
「1歳!」
「ふざてんなコイツ…」
「笑うなよ。こっちはマジなんだぞ。」


黒尾がケラケラと盛大に笑う。
当の本人は笑う顔すら見せず真面目な表情で黒尾を見る。


「俺お前に危機感を感じる。」
「いや、もうかなり前から感じ初めてはいたものの…コイツなら大丈夫だと信じ続けて来た俺ら、健気。」

「お前ら…」


夜久と黒尾の発言に結葵はため息をつく。


「思い返してみろ。1歳のときの記憶があんのか?ねぇだろ。」
「ないな。」
「…。」


結葵を静かに見つめる夜久。結葵の発言が潔いのは良いのだが答えがいつも残念だ、と思う。
「結局ねぇんじゃねぇか。」とまた笑う黒尾。


「だからー物心ついたときから可愛かったんだって。」
「お前は可愛いから好きなのか?顔か?ん?」
「なわけねぇだろっ!確かに顔は俺に似て美形だけど…いて。」
「ちょーっと女子にキャーキャー言われるからって自意識過剰になっちゃやーよ、結葵くん。」
「…はい、すみません。」


黒尾が椅子に座りなおす。


「じゃあ“俺はこの時名前に惚れた”って時はねぇんだな?」


結葵は先ほど黒尾にデコピンをかまされた額をさすりながら「俺の記憶ではねぇです。」と返事をした。


「たぶん、あったとしても覚えてねぇんだろうな。」
「…やっくん。」


そんな悲しい現実を言わないで…と悲しい顔をする結葵。


「それは仕方ねぇよ。…キスしてたら許さねぇけど。」
「それはさすがに俺も覚えておきたい!!」
「お前はもっと危機感を持つところだからな?」


妹大好きすぎて兄としての反応すら出来なくなっている結葵に一応注意する黒尾。
無駄だとわかっていても、少しの希望に縋り付きたくなるものである。


「頼むから、普通の兄貴をしっかり持っててくれよ。」
「あ?常に普通の兄貴だろーが。」
「名前から一回殴られればいいんじゃね?シスコン兄の姿を曝け出して。」
「妹は妹で兄はこういうヤツだって耐性付いてるからなぁ…」
「…名前が可哀そうだわ。」


夜久と黒尾の会話に結葵は首を傾げた。


-END-