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魔法のコトバ


夏の合宿中、黒尾と気持ちは通じたもののその翌日に落ち込む名前の姿。


「ダメだ…落ち込むな。」


“マネージャー”と葛藤する名前。
相手は黒尾ではなく部員たちだ。
マネージャーになってまだ一ヶ月と経っていないと言ってしまえばそれだけだが、名前にとってこの合宿で部員たちを知らなければならないことの重大さに気付く。


一ヶ月経ってないからって理由にしちゃいけない気がする。


先ほど、夜久を怒らせたばかりの名前。
落ち込むことも無理はなく、研磨に注意されたことを思い出す。


“夜久くんに背の話は―…”


「ごめんなさい、夜久先輩…」と小さく呟く名前。
どこかから「黒尾ー」と誰かが黒尾を呼ぶ声が聞こえた。
顔を上げた名前だったが、黒尾に頼ってはいけないと再び顔を俯かせて考える。


そう言えば…。といつの日か、黒尾と話をした会話を思い出す名前。


これは名前がマネージャーになってから少し経った後のお話。
外はすっかり暗くなり、体育館からの灯りが暗い外に煌々とした光で点していた。
そこに影をつくる名前が真っ暗な外を見つめながらため息をついた。


―苗字さん、コレ黒尾さんのです。―
―苗字ータオルはー?―
―苗字、どこ行くんだ。こっちこっち。―


毎日同じことで注意はされないものの、することが多くて絶対何かミスをする。
慣れれば全部できるようになるのかな…。
このまま頑張ってればいいのか…。


全く経験のないマネージャーの仕事もこなすと同時にバレーのルールも学ばなければいけない。

“早く慣れないと、部員に迷惑をかけてしまう。”

それが彼女に葛藤を与えていた。


「…お前こんなとこで何してんだ?」


背後から声がしたかと思えば、自分の影と声の主の影が重なる。


「放っといてください…今真剣に悩んでるんです。」
「何によ。」
「だから…」


何も言わず隣に座る黒尾が「放っとけって言われて、放っておくわけがねぇだろ?主将なんです僕。」と口角を上げる。


「放っておく主将がいるんなら見てみたいな。」


手に持っていたボールを名前に無言で手渡す。
与えられたそのボールを見つめながら「私、こんなでいいんですかね…」と黒尾に問いかけた。


「こんな?」
「失敗ばっかりして…みんなに迷惑かけっぱなしで…」
「はぁ〜お前自分いない方がいいんじゃねぇのって思ってんだろ。」
「…ちょっと。」
「かなりだろ。」
「…。」


黙り込む名前をジーッと見つめる黒尾。


「そもそも出来ないヤツに出来ないことさせねぇぞ。そんな意地悪な奴うちにはいない。」
「…はい…。」
「俺の言ってることわかってる?」
「…?」
「苗字ならできると思ってるからみんなお前に頼る。お前に頼らなくなったら、マネージャーの意味ねぇからな。」
「…そうですね。」


キツイ言い方かもしれねぇけど…と付け足し、黒尾が立ち上がった。


「少なくとも俺はお前にいてもらわなきゃ困る。今となってはな。だから頑張ってほしいし、無理なら無理って言っていいし…」


うーん…なんて言えばいいんだ?と頭を掻く黒尾の影が名前の視界に入る。
その手が下ろされたとき、自分の影と繋がった。


「そのままのお前でいいよ。」


優しく、頭を撫でる手と見上げた先にある笑顔を見て小さく安堵した。


「魔法のコトバですね。」
「はぁ?恥ずかしいこと平気で言うな。」



思い出して、ふっと笑う名前の首に突然回された腕に驚く。


「名前、お前夜久怒らせたって?」
「はい…」
「よく怒るからなぁアイツ…もっと落ち込んでると思ってたけど…」
「…めっちゃ落ち込んでました。先輩来る前まで。でも…」


先輩の魔法のコトバ思い出したら、大丈夫になりました。
そう言った彼女の頭を乱暴に撫でる黒尾。


「さっき俺が代わりに怒られたわ。」
「え、なんでですか…」
「俺がちゃんと名前に言ってねぇからだろって。そして代わりに探してこいって。人使いが荒いのよウチの守護神。」


笑う名前に安心したように黒尾も柔らかい笑みを見せた。


-END-