手の冷たさと温もり
真冬の空の下、ジャージに身を包んだ部員たちがロードワークから帰ってくる。
身を縮ませて体育館へ入っていく部員たちの中で研磨が気づいた。
「どうした?」
山本が立ち止まって一点を見つめる研磨に声をかける。
彼の視線の先にはマネージャーの姿。
「寒そうだね。」
「そりゃ寒いだろーっ」
水を使う名前を見ていた二人を黒尾が「おい、練習するぞ。」と声をかけた。
休憩に入れば、当たり前のように籠に詰められたドリンク。
詰めた本人はどこに行ったのか、姿が見当たらない。
「名前探してんのか。」
背後から黒尾が研磨に言う。
どうせニヤニヤしている彼の顔を見ることなく研磨は「べつに。」と籠の中から自分のものを取り出す。
近くから山本が黒尾に問いかける。
「苗字さんっていつもそこの水道使ってるんすか?」
「そうだな。一番近くがそこしかねぇから…って言っても、どこ行ったってお湯が出る蛇口なんて良いもんねぇからな。」
「そうっすよね…」
「あ?何。」
「いや、いつも寒い中ありがたいなぁと思っただけでっ」
「あー…そうねぇ。」
山本に言われて黒尾も頷くその隣では研磨が思いつめた顔をしていた。
部活を終え、各々練習をしたり帰宅したりと動き出す。
研磨は近くにいた彼女に声をかけた。
「一緒に帰ろう。」
「…うん!」
一瞬、驚いた顔をしたがすぐ大きく頷いた名前。
着替えを済ませた二人が仲良く帰路へつく。
マフラーに顔半分を埋める名前に研磨が「この時期、大変なんだね。」と呟くように言う。
でも、名前は何のことかさっぱりである。
「何のこと?」
「手。」
「手?」
益々わからない彼女は自分の手を見つめる。
すると研磨の左手が彼女に差し出される。
「…え、手つないでくれるの?」
「うん。」
いつも「寒いからやだ。」と断れるため手を繋ぎたいと言わなかった名前。
「今日だけ特別。」
「今日だけ?なんで?」
視線を彼女とは反対へ向ける研磨が呟く。
「名前、手冷たいから嫌。」
「ご、ごめん…」
「でも、」
山本の言葉と、今日見た彼女の光景を思い出すと…何でこれほど冷たいのか分かった。
「ありがとう。」
研磨にそう言われた名前は首を傾げた。
「…何のこと?」
「手、温かくなった?」
「うん!あったかいね。」
「なったんだ。じゃあもういいか。」
「なってないよっなってない!うそうそっ」
-END-