10 of Clubs
どうして私なのですか
◆ ◇ ◆
寺井から視線を逸らした名前に、彼はふっと小さく笑った。
「俺はな、苗字。自分のようになっては欲しくない。ほら、お前がマネージャーしようか悩んでた時だって俺は青春は謳歌したほうがいいぞって言ったろ?」
「……そんなこと、言ってましたね」
「文化祭の委員長すれば、青春を謳歌するポイントとしてはかなり高いと俺は思うんだよ」
俺良いことしてるだろ、と鼻高らかに言う寺井を見ながら“本心はなんですか”と心の内で問いかけた。
「どうして私なんですか…?」
「うん。簡単にすると…勉強できるんだし、部活も行事ごともやり遂げてくれるだろうという俺の淡い願いだ」
「わかりました。引き受けます」
傍から見れば、なんて簡単な奴だと思われるような即答だった。
しかし、名前は寺井の理由はあまり気にしていなかった。
言われた瞬間から、引き受けるか、断るかの二択で結論が出ることはわかっていたのだから、そのことしか考えていなかったと言っても過言ではない。
寺井からの理由で、引き受ける勇気が少し得られたらと思っただけだ。
「え…」
「引き受けると思って持ち掛けたのでは?」
驚いた顔をする寺井に据わった視線を向けた名前。
「いや…うん。まぁ、お前が引き受けてくれるんなら結果オーライだ」
「で…」
「ん?」
彼女に、下心が無いこともない。
「それで、クラスの子と交友を深めることはできますか?」
「さっき俺と同類だと思ったからか?本心丸裸にして来たな」
そうだな…と苦笑いを浮かべた寺井。
「間違いなく、お前の人柄をどう見るかによるだろう」
「クラスのコがですか?」
「そう」
ごもっともな言葉に、名前は考えた。
人柄か…。
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