Joker Lover | ナノ
10 of Clubs
何かしたっけ?

◆ ◇ ◆


「苗字」

「……」


朝、担任の寺井が出席を取り終えた後、何かを話してから名前を呼んだ。
彼女は頬杖をついてどこかを見ていたが、自分の名前が担任の教師から呼ばれると思っておらず聞き間違えかと先生を見つめる。

寺井は容赦なかった。


「来い」

「……え?私?」

「苗字はお前しかいないはずだけどなー」

「……はい」


教室を出て行く寺井の後を追おうと立ち上がった彼女の背後に座って、一連を見ていた蓮耶が彼女に「おい、名前」と声をかけた。


「ん?」

「何したんだよ?お前」

「……」


蓮耶の問いかけに、やはり考え直すことにしたらしい名前は少し目を上へ向けた。
いくら考えても、寺井に呼び出された訳に心当たりが無く、蓮耶をもう一度見ると「わからない」と苦笑いをした。

教室から出たところに寺井が立って待っていた。
名前の顔を見た瞬間、眉間に皺を寄せる。


「苗字。俺はこんなこと本当は言いたくないんだがな…」

「じゃあ言わなくていいですよ」


本当に、自分は何をしたのだろうか?


寺井の一言で名前の不安は増す。
言い難そうにしている寺井を見ると尚更だった。
寺井は、少し黙った後、深く息を吐くと真っすぐ彼女を見た。


「文化祭の委員長を頼まれてくれねぇか」

「……」


寺井がじっと彼女の返答を待つが、当の本人は拍子抜けした。


…怒るのでは、なかったのですか?寺井先生よ。


内心そんなことを呟きながら、申し立てられた言葉を真面目に考える。
そもそも、どうして自分に直々に頼んできたかが疑問だった。

それを察したかのように、事情を饒舌に話し始める寺井。


「言いたくねぇけど、お前マネージャーもしてるし、夏休み前にあった期末試験は化学欠点で補習だったし、そんな奴じゃないこと俺も知ってるし言うが、俺から直々に頼める奴で、学業に支障を来さず委員長というものをしてくれる奴は苗字だけでだな…」

「先生、それ、先生がクラスメイトと和気あいあいとしないからじゃないですか」

「それ、お前が言うのか?」

「……」


実際、彼女も岸と研磨としか話さない。
つまり、クラスメイトと和気あいあい…なんて無縁な女なのである。



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