Joker Lover | ナノ
10 of Clubs
やさしいな

◆ ◇ ◆


「名前」


翌日、朝練に出ていた名前に声をかけた黒尾。
その手に持たれていたのは、昨日話していたタオル。


「別れたら返すこと」

「…冗談ですか?」

「さぁ〜?」


ニヤニヤといつも通りの黒尾だが、それだけ渡して部室へ向かった彼の背中を見ながら思う。


ホント、優しいな…。
意地悪な時の方が多い気がするけれど、総合してみれば優しい黒尾先輩と意地悪な黒尾先輩は同等かもしれない。


貰ったばかりのタオルを見て、勝手に頬が緩む名前。


朝練を終えたバレー部員たちは、各々教室へ向かう。
研磨と名前は同じクラスなため、共に教室へ向かっていた。


「研磨はさ、黒尾先輩に意地悪な事される?」


そう問いかけた瞬間、研磨が尋常じゃないほど嫌そうな顔をした。


「意地悪じゃなくて…Sっ気があるとは思うけど…」

「…うん…なんで、そんな嫌そうな顔するの?」

「名前の質問の90%はクロのことだから…言っちゃいけないこと言っちゃいそうで嫌だ」

「だーいじょうぶ。言っちゃった時は私が守ってあげるから」

「…」


二人とも、同志なのだ。
黒尾に間違ったことを言えば、意地悪という名の恥じが与えられる罰を受けなければならなくなってしまうことを知っている。


「クロの意地悪は、ホント意地が悪いよね」

「じわじわと追いつめられてって、最後、逃げ出したくなるよね」

「…うん」

「でも、優しい時は優しいよね」


明るい声で、研磨にニコッと笑みを向けて同意を得てみた名前に、研磨は珍しく「まあね」と静かに返答した。



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