Joker Lover | ナノ
10 of Clubs
そういう好きではない

◆ ◇ ◆


「なんで元気ねぇの、お前。」


研磨が帰った後を追うように、帰路を歩く二人。制服姿の黒尾を見上げるなり、名前がへらっと笑った。


「なんでわかるんですか?元気ないって…研磨も、先輩も…」

「そりゃ気にしてるからな。名前は後輩でもあるわけだし。」


後輩…。


「じゃあ、後輩で、一ファンとしてはタオルはくれないんですか?」

「え…なに、まだタオルのこと引きづってんの?」


だって…欲しいもん!!
どうしても欲しい!


「黒尾先輩のが欲しいってわけじゃなくてみんなのが欲しいです!」

「さらっと傷ついたわ。今。」


頭を乱暴に撫でられ、髪を整えながら黒尾を見上げた時、彼の柔らかい笑みを見て固まった。


「でももう手に入らないから、俺のでよければ差し上げますけど?」

「……。」

「ん?名前?」


俯く彼女の顔をのぞき込むように見た黒尾は言葉を失くした。


「何で照れてんの?」

「……先輩が優しい顔して笑うから…ドキドキしてした。」


顔を隠す彼女。
黒尾は、はぁ?と溜め息をついた。


「俺はいつもお前にドキドキし…」

「立ってるだけでですか?」

「そうそう。姿見るだけで……なぁ、名前」

「はい」


首を傾げ、隣に立つ黒尾を見上げると、やけに真剣な顔をして見られていたことに少し驚く。


「研磨のこと、好きなのか?」


歩む足を止め、考えた。

ふつうに、好きだけど…
その好きではなくて、今先輩が聞いてる好きは…たぶん…


「好きですけど、黒尾先輩みたいに、触れて欲しいとか、思わないので…そういう好きではないです」


言ったそばから抱きしめて欲しい、今、猛烈に顔を隠したい。


「…おい、顔見せろ」

「嫌ですよ、無理矢理させたら嫌いになりますからね!」

「だいぶ俺のことわかってきたようだな」


拒否する名前に苦笑いを浮かべた黒尾。


「優しいことは知ってますよ。あと…」

「なにかなー?」

「エロい」


黒尾は今までしてきたそう思われそうな行動を思い返してみる。


「…あれでエロいってどんな…」

「それでなくても色気あるんですから見てるだけでドキドキするのに、あんな至近距離で触れられたら…」

「触れられたら?」


絶対今、ニヤニヤしてる黒尾の顔を浮かべて、反論したくなる。
でも、ペラペラと口走ってしまった自分が悪い。


「……死にます」


その言葉を言った後の先輩の顔は、とてもニコニコしていて、怖かった。


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