10 of Clubs
気づいてるんだ
◆ ◇ ◆
体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下、ここまで来れば誰かに見られることはない。
外はすっかり暗くなり、遠くにある蛍光灯の柔らかい光が2人を照らす。
「研磨?どうしたの?」
「どうしたのじゃない…名前におれが聞きたい。」
驚く研磨の行動力に名前は何事かと思ったが、彼は特に何事もないようで…むしろ、名前に用があると言う。
ぎゅっと手首を掴まれ、研磨を見るが視線を落とされる。
「…なんで、誰も気づかなかったのに、研磨は気づくの?」
呟くようにそう言われ、研磨は小さな声で伝えた。
「人より、周りは見てるつもり。」
チラッと名前を見れば、力なく彼女が笑った。
「誰が落ち込んでてもこーやって話するの?優しいね、研磨は。」
「…名前が明らかに落ち込んでるのが悪い。」
本当はこんなに面倒なことしたくないし、早く帰りたい。
でも、どうしてか、彼女を放って置くことはできなかった。
「たぶん…もう、ウチに必要な存在だから、」
だから…
さっと秋のような冷たい風が吹く。
髪を抑える名前が研磨と目を合わせると、少し目を見開いた。
「名前が気になる。」
特に、意味の無い言葉だと分かっていても…それは、マズイと思う。
自分でも分かってる…素直に伝えることがどれだけ相手の理解を悩ませるのか。
「名前が元気ないと、夜も眠れない。」
「感情が篭ってないよ?研磨くん。」
クスッと笑う名前。
…ほら。やっぱり。
こんなに綺麗に笑う名前、初めて見た時には考えられなかった。
なんで、クロは気づかないの?
そこで、ハッとした研磨は名前に口角を上げて見せた。
…違う、気づかないんじゃない。
クロは、もう何度も見てるんだ。
出会った時から、好きだったんだから…
おれより、名前を見てて当然で…
「おーい、研磨ー?どこいったー?」
黒尾の声に名前が視線をそちらへ向ける。
その横顔を見て、納得した。
クロは、ちゃんと知ってるんだって。
「コッチ。」
研磨の声に暗闇の中へ視線を向けた黒尾が二人を見て少し身を引く。
「!!はっおまっ…え?!なにっそういうこと?!」
「なんで嬉しそうなの…自分の彼女でしょ?」
「?」
二人の会話に首を傾げる名前。
「冗談。で、何してんの?」と笑い混じりに問いかける黒尾を見てため息をついた。
「はっなんでため息?!」
「名前とちゃんと話しなよ。そのために探してたんでしょ?」
「なんでわかった?」
「…べつに。」
だって、用がないなら…普通。帰るじゃん、おれいなくても。
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