Joker Lover | ナノ
10 of Clubs
変化に変化を重ねる

◆ ◇ ◆


「黒尾の周りに女子がいねぇのは珍しいな。」


ズゴーッと音を立ててパックジュースを飲み干す名前がチラッと窓の縁に腰掛けている様子を見て視線を落とす。


「いつから呼び捨て…?」

「今!っつか孤爪おまえバレー上手い!」


縁から降り、座ってゲームをする研磨の肩に腕を回す蓮耶。

すっかりスポーツ大会で腕を見せた研磨は、それはもうクラスの有名人になった。蓮耶なんて調子がいい者で褒めて褒めて褒めまくる。
慣れない研磨は嫌そうに顔を顰めていた。

その視線は、目の前の彼女に移る。

名前は手にした空のパックジュースを机に置き、昼食のサンドイッチを手にしたがため息をついた。


元気ない。


何か声をかけたいが、口を噤む。
いつも、名前は黒尾のことで喜怒哀楽しているが、見ていると面倒くさくないのか、とばかり思ってしまう。
でも、そんな彼女を放っておけないのも事実。


毎年のように黒尾はスポーツ大会で、女子の注目的になる。でも、今年はそうならなかった。
それは、間違いなく黒尾が“彼女”の存在を明らかにしているから。



嬉しいはずでしょ…なのに、なんで?


「名前、ちょっと。」


なんで、そんなに泣きそうな顔してるの?


明らかに元気がなくなったのは昨日のタオルの話のあと。
でも、聞いてる限りでは嬉しいはずの話だった。


『タオルでいーわけ?』

『はい?』

『俺がいんのに?』

『…。』


それもそうだ。
憧れた存在が彼氏なんて、どれだけ嬉しいことなんだろう。

…贅沢言うな、自分。


研磨はその時の、ギュッと目を瞑る名前を見た時、嫌な予感がした。
その時は笑って「そうですね!」なんて言ってたけど…


無理に笑ってたの、知ってるよ。


「え、なに?」

「いーから来て。」


時間が経ちすぎて、部活も終わりを迎え、あとは、帰るだけの状態になった時、やっと声をかけることが出来た。
とりあえず、誰かに見られる前に体育館を去りたい。

その衝動に、名前の手首を掴んだ。


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