Joker Lover | ナノ
9 of Diamonds
タオル

◆ ◇ ◆


キャーキャーと黄色い声がするグラウンド。
広いそのグラウンドでは今まさに接戦が繰り広げられていた。
サッカーボールを追いかけて、ただひたすら互いのゴールを目指す。


「なんで男子にはこういう場があって、女子にはないんだろうね。」と名前が言えば「まぁまぁまぁまぁ。…妬くなって。」と彼女の右肩を掴む蓮耶。

その二人を横目に黙ってグラウンドを見ている研磨がポツリと言葉を発した。


「クロ。」

「え?どこに?」


黄色い声の向かう先はモテモテの黒尾先輩だったのか、とグラウンドを見た瞬間、右肩が少々軽くなった。
かと思えば目の前が暗くなる。


「馴れ馴れしいなぁ岸くん。」

「痛いです。黒尾先輩。」


見上げた先に黒尾の作り上げられた笑みがあり、彼の左手は岸の左手を掴んでいる。


「いー加減オレに妬くのやめてもらえねぇかな?」

「無理だな。さっきの今だろーが。」


さっきというのは、この大会が始まる前に名前の身体を舐めるように見ていたことを指している。

それを言われては、無理なものは無理だ。


「そしてお前は生意気過ぎんだよ。」

「すんませんね。生意気で。」

「腹立つわ…」

「せ、先輩!」


不穏な二人に挟まれていた名前が先ほど研磨から預かったタオルを黒尾に見せた。
それを見た黒尾が「あ?なんで名前が?」とそれを手に取る。


「研磨がくれました。」

「勝手に人のものを…」

「…。」


ふいっと知らぬ顔をする研磨。


「それより、なんで言ってくれないんですか?」

「何を?」

「タオル!全員分のがあるんですよね?」

「あー…これは…アレだ。名前が入る前からあるやつだから…」

「でもファンとしては欲しいです。」


真っ直ぐ黒尾を見上げる名前。
その視線に、さすがの黒尾も顔を背ける。
名前は黒尾と出会う前から密かな彼のファンであり、それは合宿の時、本人に聞かれているため当人も知っている。


「んー、そうだなぁ。」と頭を掻くなり、腕を組んだ。


「…何をそんなに悩む必要があるの?あげればいーじゃん。」と研磨からの声がかかり、黒尾は決意したように名前を見た。


「タオルでいーわけ?」

「…?はい?」


一体、どういうことだろう?

名前は首を傾げた。


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