9 of Diamonds
度肝抜かせてあげて
◆ ◇ ◆
朝練の時にされたキスを思い出し、唇に触れる名前。
頬をほんのり赤くさせ、ぽーっと座っているその姿に岸が引いた表情で言った。
「…きめぇ。」
「…。」
全く聞こえていない名前は、脳内お花畑状態なのだろう。
岸は彼女の目の前に座り、そばにあった教科書を丸めて彼女の頭をパコッと叩いた。
我に返った名前は、目の前の岸を見るなり「…え、なんで叩かれた?」と呟く。
「向こうの世界に飛ばれる前に呼び戻したんだよ。」
「?意味わかんない。」
「俺はお前が何を思い出してそんな状態になってたのかがわかんねぇわ。」
それを聞き、思い返し、頬を再び赤くする名前に岸は「わかった。黒尾先輩なのは承知済みだ。」と言って、去るのかと思えば彼はその場から身動き一つせず、視線だけを彼女に向けると
「で、何されたんだよ。」
真剣な顔つきでそう聞いた。
しかし、名前が答える、いや、答えられるはずがない。
「…しばかれたくなかったらそこからとりあえず立って。」
その言葉に岸は「なんで教えてくれねぇんだよ!」と叫ぶ。
「うるさい。」と冷たく言い放てば、顔を彼から背け、赤くなった顔を隠した。
「そいやさ、孤爪なんだけど。」
「うん?」
立ったそこに再び腰を落とした岸。
端の方で小さくなっている彼を見ながら「どんくらい上手いの?」と主語のない疑問をぶつけてきた。
「なにが?」
「バレーだよ。」
ため息が出そうになる。
これだから、うちのバレー部を知らない奴は…
「うちの高校、舐めてるよね。」
「いや、学校はなめてねぇ。」
「じゃあ今すぐうちの学校名とバレー部で検索しろあほ。」
「…どさくさに紛れて今悪口言ったろ。」
ブツブツいいながら真面目に検索し始めた岸を横目に名前は研磨を見る。
…度肝抜かせてあげて研磨くん。
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