9 of Diamonds
奥手
◆ ◇ ◆
「…朝、走ってきましたよね。」
「げっ何でわかった?」
「汗の匂いが…」
「お前…もっと早く言えよ…」
恥ずかしいわ、と少し身体を離した黒尾。
何で…朝から一人で走るんだろう?
「おーい、黒尾ー…って、苗字。」
「夜久先輩、おはようございます。」
「はよ。早いなきょう。」
黒尾と名前を見た夜久がニッと笑う。
「昨日研磨にアドバイスを。」
「どんな?」
「名前に触れたいなら、触れたらいいじゃん。何を我慢して、それが正しいと思ってんの?」
って言われたと話す黒尾。
ぶはっと吹き出すように笑う夜久。
「すげぇ想像つくわ。」
「想像も何も…言ったんだよ。本人が。」
「はいはい。で?実行したのかよ?」
シューズの紐を結び立ち上がる夜久。
彼を見上げて、ため息をつく。
「本人目の前にすると、どうもなー…」
「できねぇのか。ヘタレだな。」
「なんだと。」
そんな二人の間に、「おはよ。」と覇気のない声が聞こえた。
「で、実行したの?」
「…できなかった。」
黒尾の言葉に眉間に皺を寄せた研磨。
「何のために、朝早く来たの?」
「誰もいないからです。」
「理由が下心満載だな。」
夜久を睨む黒尾。
ふっと笑う夜久はその場を去っていった。
「案外、奥手…?」
「なわけあるか。隙あらば…いや、何でもねぇ。」
咳払いをし、そこまで言って辞めた黒尾にため息をつく研磨。
「…奥手。」
「うるせぇな。」
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