9 of Diamonds
早朝
◆ ◇ ◆
翌朝、昨夜のことを考えながら名前は登校していた。
昨夜のこととは、黒尾と帰らなかったことである。
何で…昨日は一緒じゃなかったんだろう…
つい最近までのいざこざがあった時はまだしも…昨日は、ちょっと楽しみにしてたのになぁ…。
「…自分ばかり好きみたいな。」
ふと、昨日のキスを思い出し顔を赤くする名前。
『名前に会いたかった。』
その言葉は、彼女の胸を高鳴らせた。
…好きすぎてつらい。
そんなこと、黒尾先輩は思ったことないんだろうな。
男子バレー部の部室の前を通りすぎ、女子更衣室へ真っ直ぐ向かっていく名前。
何を思ったのか、振り返って部室を見る。
…そういえば最近先輩…、と何かを思った時だ。
「名前ちゃん。」
その声と同時に、ふわっとよく知る柔軟剤の香りと、ほのかに香る汗の匂いが鼻を掠める。
視線を声のした方へ向けた時にはすでに真っ黒なシャツに視界が埋め尽くされ、上昇した体温を直に感じた。
直後、ぎゅーっと抱きしめられる。
「く…苦しいです…」
「おはようございます黒尾先輩、だろ?」
頭上でニヤニヤしているんだろうな、と思い名前は朝だということを良いことに、その背に腕を回して抱きついた。
「先輩に会えて嬉しいです。」
予想外の彼女の言動に黒尾はドキッとした。
コイツたまにこうストレートなことを…。
「毎日会ってるだろ。」
「部活の時は会えますけど…授業中は会えないです。授業中の先輩もみたい。」
「バカ。」
「え?」
一言、バカ、そう言われて手首を掴まれれば、黒尾は体育館の前まで引っ張られる。
まだ誰もいない周り、静かな早朝の空気と、目の前の彼の匂いだけがそこはした。
「研磨の言う通りかもなぁ…」
「?研磨?」
何のこと?そう聞こうと口を開いた隙をつかれたように、唇を指でなぞられた直後、そのまま塞がれてしまった。
「んっ…」
苦しい…!
眉間に皺を寄せ、黒尾のシャツをぎゅっと掴む名前。
気づいていながら、わざとだろう…
肩に回された腕に力が入ったのがわかった。
舌を絡め取られ、口内を侵される。
意識…飛びそう。
そっと離れ、見上げれば真っ直ぐ向けられる視線。
「…先輩は、なんで今日こんなに早いんですか?」
その質問に彼が答えたあと、再び深いキスが続いた。
「名前に早く会いたかったんだよ。」
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