9 of Diamonds
ムリ
◆ ◇ ◆
ばんっと黒板に大きく書かれた文字に研磨はため息をつく。
「ムリ。」
「ムリってなんだ。」
研磨の机の前には岸の姿。
さらにため息が出そうになる。
「おれ何もしたくない…」
「なんで、バレーすりゃいいじゃねぇか!」
強豪バレー部のセッターだろ?と言う岸にさらに嫌そうな顔をする研磨。
名前は「うるさい、岸。」と一言放った。
ホッとしたのもつかの間。
「大事なセッターのトスを打つことができるのは部員のみ!」
「……はぁ。」
もう嫌だ、この二人。と研磨が窓の外を覗いた時だった。
「名前、クロが呼んでる。」
「えぇ?何言って…」
研磨の視線の先を見た名前と岸。
彼らのめに映ったものは、間違いなく黒尾がこちらを見上げて手招きする姿だった。
「ち、違うでしょ。アレ、どうみても研磨を呼んでる。」
「動揺してるぞ、名前。」
「おれは降りるのめんどくさいから、クロがここまで来るよ。」
「手招きしてるってことは、お前にってことか。」
二人の言葉に、少し考える名前。
もう一度窓の外を見ればそこにもはや彼の姿が無かった。
「追いかけなよ。」
研磨のその一言に、何かを感じた訳ではないが、名前は走り出した。
休み時間もあと少し。
黒尾の姿を見つけ、誰もいないことをいいことにそのままその手を掴んだ。
乱れた髪の上にぽんと置かれた大きな手と
「おせーよ。」
笑った顔が見えれば、嬉しさでなにもかもがどうでもいい気がした。
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