7 of Spades
嬉しさ
◆ ◇ ◆
「お前なぁ…」
「ん?」
翌朝、夜久が呆れた顔をして黒尾を見る。
黒尾は顔を夜久へ向けた。
「きのうキスしてたってすげぇ噂だぞ?」
「マジで?」
「マジで。」
黒尾は驚きもせず、むしろ口角を上げて見せた。
「いーじゃねぇか。付き合ってんだし。むしろもっと噂になればいい。」
岸のことを思って言っているのはわかっている夜久。
そういう独占の仕方しかねぇのか?と苦笑いをする。
その時、黒尾は考えていることがあった。
「…なぁ、やっくん。」
「ん?」
不意に名を呼ばれ、振り返る夜久。
その時の黒尾の真剣な表情を見て、目を少し見開いた。
のも束の間…
「手ぇ出すタイミングって、わかるか?」
「…は?」
何の話だよ、と呆れた顔で突っ込めば、黒尾が「だから…」とハッキリ言ってしまいそうな勢いだったため夜久は遮るように言葉を重ねた。
「知らねぇーよ。」
「なんで怒る…?」
最近俺怒られること多くね?と内心思う黒尾。
夜久は存分に悩めばいい、とため息をついた。
悶々と悩む黒尾に、先生の声が耳に入った。
「今からスポーツ大会のメンバー決めるぞー」
…あぁ、そういや再来週だったか?
すっかり脳内は彼女のことかバレーでいっぱいな彼はくわっと欠伸をした。
一方、2年3組の教室でも同様のことが行われていた。
「…。」
名前は配られたプリントを見て目を輝かせる。
「全学年参加行事…」
小さくそう呟けば、今年は黒尾の姿が見られると思うと嬉しい気持ちが増していく。
「顔がにやけてんぞ。」
「ふふふ…」
「気持ち悪。」
岸に何を言われようが関係ない。
…カッコイイんだろうなぁ。
名前は自分のことより黒尾のことばかり考えていた。
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